大王製紙が日清紡ホールディングス(HD)の紙製品事業を買収する。4月3日付で日清紡HDの連結子会社、日清紡ペーパープロダクツの全株式を250億円で譲り受ける。
トイレットペーパーやティッシュが主力の日清紡HDの紙製品事業は、70年の歴史を持つ。「コットンフィール」などのブランドを展開している。洗浄機能付き便座の普及をにらみ投入した「シャワートイレのためにつくった吸水力が2倍のトイレットペーパー」は、ヒット商品となった。
2017年3月期の紙製品事業の売上高は、前期に比べて微増の327億円。一方、営業利益は3.1倍の23億円となる見込みだ。しかし、寡占化が進む家庭紙業界にあって成長が難しい状況が続いていた。
大王製紙から日清紡HDに紙製品事業を譲り受けたいと申し入れ、日清紡HDは紙製品事業からの撤退を決めた。
大王製紙は家庭紙で首位固めを狙う
大王製紙の売上高は、国内製紙業界では王子ホールディングス、日本製紙、レンゴーに次いで第4位。総合製紙メーカーとしては3位だが、「エリエール」ブランドで展開するティッシュやトイレットペーパーといった家庭紙のシェアは約23%(15年度の売上高ベース)で首位。「クリネックス」「スコッティ」ブランドを展開する日本製紙の約12%を引き離している。
ティッシュはスーパーマーケットやドラッグストアで安売りの目玉商品となっており、低価格の輸入ティッシュが2割のシェアを占めるまで急増した。その危機感をバネに、大王製紙は日清紡HDから紙製品事業を買収する。ちなみに、日清紡HDの紙製品の売り上げの半分が家庭用だ。買収によって、家庭紙での首位を盤石なものになるとみられる。
大王製紙の17年3月期の売上高は前期比1%増の4800億円、営業利益は3%増の250億円、純利益は11%減の130億円を予想している。円安で原材料の輸入コスト上昇が響いた。
それでも家庭紙は好調で、売上高は7%増の1700億円を見込んでいる。ティッシュやトイレットペーパーはインバウンド(訪日外国人客)の増加もあり、ホテルやレストランなどからの引き合いが活発になっている。同部門の営業利益は100億円と微減だが、家庭紙は全売上高の35%、営業利益の40%を稼ぎ出す。日清紡HDの紙事業の買収で、家庭紙が名実ともに大王製紙の主力事業となる。
日清紡は主力のエレクトロニクスとブレーキ事業が不振
日清紡HDは1907年に日清紡績として創業した老舗。日本の基幹産業だった繊維は、衣料を中心に市場が縮小。各社は高分子分野などの繊維以外で大半の利益を稼ぐ経営に移行した。
日清紡HDはエレクトロニクス、ブレーキ摩擦材、精密機器、化学品、繊維、紙製品、不動産の7分野で事業を展開している。2000年代以降、新日本無線や日本無線を相次ぎ子会社化し、エレクトロニクスが主力事業(売り上げ比率は16年9月期で34%)になった。
日清紡HDは17年3月期の連結業績予想を下方修正した。当初予想に比べて売上高は90億円減の5230億円(前期比2%減)、営業利益は30億円減の40億円(同68%減)、純利益は20億円減の30億円(同72%減)に引き下げた。
日本無線は、海運市況の低迷による新造船の減少や受注案件のキャンセルのあおりを受け海上無線機の売り上げが減少し、利益も減った。新日本無線も、保有する固定資産の減損を計上した。その結果、エレクトロニクス事業の売上高は前期比4%減の1970億円、営業利益は90%減の8億円に落ち込む見通しだ。
もうひとつの主力事業が自動車のブレーキ摩擦材。11年にブレーキ摩擦材大手のTMD(ルクセンブルグ)を460億円で買収して世界シェアでトップになった。同部門の売上高は前期比11%減の1470億円、営業利益は8億円の赤字と2期連続の赤字になる見込み。7つの事業のうち営業赤字なのはブレーキ摩擦材だけだ。これが大きな誤算だった。
全社売り上げの65%を占めるエレクトロニクス、ブレーキ摩擦材の事業が不振だったことから、業績は低迷した。
トランプショックでメキシコの新工場計画は白紙に
日清紡HDは2月8日の決算発表の席上、奥川隆祥取締役常務執行役員が「メキシコは有力候補地だったが、同国以外を考えている」と、メキシコでの新工場建設計画を見送る方針を明らかにした。
日清紡HDは、ブレーキ摩擦材の生産拠点を米国とメキシコに1カ所ずつ持つ。銅を使わない摩擦材の需要が伸びていることから、世界の自動車大手の完成車工場が集積するメキシコに年内にも新工場を建設する計画だった。
しかし、ドナルド・トランプ米大統領が北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを表明、「米国第一」を打ち出したことにより、メキシコの新工場を断念した。代わりの候補地としては、米国を最有力にするという。
(文=編集部)