楽天の三木谷浩史会長兼社長は海外事業を立て直せることができるか――。
楽天は、かつてインターネット通販サイトを閉鎖した欧州で、今度は銀行業務を始めた。株式市場では「また失敗するのではないか」との冷ややかな声が挙がる。
今年に入ってからの楽天の株価は1月10日の1240.0円が高値。11日に欧州での銀行業務開始の発表をすると、株価は下げ足を強めた。18日には一時、1088.5円まで下落。1000円の大台割れ寸前だ。銀行業務の開始が、海外事業の立て直し策になると市場は評価していないということだ。
2008年3月、欧州の中核拠点としてルクセンブルグに楽天ヨーロッパを設けた。15年2月に銀行業の営業免許を取得。楽天ヨーロッパの傘下に楽天銀行ヨーロッパを設立し、このほど業務を始めた。
まず、フランスで運営しているEC(電子商取引)サイト、プライス・ミニスターに加盟する中小の事業者向けに金融サービスを行う。ドイツのEC向けにも参入を検討するとしている。
アジア、欧州のネット通販から続々撤退
楽天は16年6月8日、欧州のECモール事業を抜本的に見直すと発表した。英国とスペイン、オーストリアのインターネット通販サイトと事業拠点を8月末までに閉鎖し、欧州全体で100人前後を削減。今後はネット通販市場が大きいドイツとフランスに経営資源を集中するとした。
海外でのインターネット通販は、米アマゾン・ドット・コムに完敗した。アマゾンは各国で2割前後のシェアを持つが、楽天は1%以下にとどまる。
すでにアジアでは撤退した。16年3月、インドネシアとマレーシア、シンガポールで通販サイトを閉鎖。4月にタイでネット通販を手掛ける事業会社を売却した。中国からは12年に早々と撤退している。
アマゾンなど競合企業に敗れた結果、10カ国・地域に展開した楽天の海外ネット通販事業は米国や台湾、ブラジル、フランス、ドイツの5カ国・地域に縮小した。これらの国々でもネット通販サイトを閉鎖するのは時間の問題といった悲観的な見方もある。
ネット通販は楽天の主力事業だが、海外では勝負がついた。アジアでは個人がネット上で中古品を売買するフリーマーケット事業に切り替える。欧州では銀行経営に進出する。
巻き返し策として、楽天はサッカーのスペインリーグの名門、FCバルセロナとパートナ契約を結んだ。17~18年シーズンからの4年間で契約金総額は275億円。この発表を受けて楽天株は売られた。グローバル事業の稼ぎにどれだけ結びつくか「費用対効果が見えない」と判断された。
欧州事業の立直し策としての銀行経営、名門サッカーチームとのスポンサー契約とも、市場からは高い評価を得ることができなかった。
楽天は日本でしか通用しないガラパゴス企業?
10年2月中旬、三木谷氏は記者会見で「真の世界企業を目指して海外に軸足を移す」と大見得を切った。6カ国・地域で展開している事業を最終的に27カ国・地域に拡大するとして、世界一のインターネット企業になるべく英語を公用語にした。
そして、海外企業のM&A(合併・買収)を猛烈な勢いで進めた。15年12月期の連結決算(国際会計基準)に、その収支決算(=結果)が出た。過去に買収した企業の「のれん」代の減損損失が発生し、営業利益は946億円と、その前の期に比べて11%減少した。減損損失は381億円に上った。10年に買収したフランスのECサイト、プライス・ミニスターと、11年に傘下に収めたカナダの電子書籍会社コボの2社の減損損失が大きく、減損額の6割超を占めた。17年に入り、一転して海外のネット通販からの撤退を決めた。
16年1~9月期の連結決算は、売上高にあたる売上収益は前年同期比9%増だが、本業の儲けを示す営業利益は9%減の752億円だった。国内のインターネット通販事業の取扱高が伸びて手数料収入が増えたものの、顧客へのポイント付与を厚くしたことから販促費用がかさんだ。クレジットカードの利用増で好調だった金融事業で全体のマイナスを補えず、減益となった。
楽天は海外事業の損益を公表していない。「海外事業の収益は厳しい」というのが、アナリストたちの一致した見方だ。
海外事業が失速したことで、世界一のインターネット企業になるという三木谷氏の野望は潰えた。
英語を公用語にした三木谷氏はメディアに登場し、「日本の経済界はガラパゴス状態」と痛烈に批判した。「サービスと金融で世界的な企業に育てようといった発想がない。すべてが内向きで個人として勝負できる人が政治家にも経営者にもいない」と本音で発信し、果敢に海外に打って出た。
だが、世界の強豪たちの反撃で返り討ちに遭い、撤退に追い込まれた。楽天自身も、国内でしか通用しないガラパゴス企業なのか。こうした疑念が、ますます濃くなっている。
(文=編集部)