豊富な資産を食い潰し破綻した「レナウン」経営陣から、アパレル業界は学ぶべきだ
1990年代には世界最大の売上を誇り、1902年創業の輝かしい歴史を持つ名門の東証一部上場企業だったレナウン。5月15日に民事再生手続きに入ってはや5カ月を迎え、残念ながら解体される。本連載でも昨年から、人事の混乱や海外での会計処理の不透明さを指摘してきたが、8月17日には東京地方裁判所への再生計画案提出を6カ月延期すると発表した。
当初の8月末までに事業譲渡を終える計画は水泡に帰すかと思われたが、8月20日、子会社レナウンインクスの全株式をアツギに譲渡すると発表。21日には主要5ブランドの譲渡契約を、大阪船場の創業約300年の中堅企業、小泉産業グループと締結した。
本稿では、なぜ再生計画は難航したのか、そして小泉産業はレナウンの主要ブランドを再生できるのかを検証してみたい。
1.業界他社からみて、まったく魅力のなかったレナウン
過去の実績とブランド力で、レナウンは2度の大きな投資を得てきた。2005年にカレイド・ホールディングスはレナウンに100億円を投資したが、5年と持たず再建できなかった。繊維に強い有力商社の協力もあり、次に投資に手を挙げたのが中国の山東如意科技集団だった。レナウンは山東如意から10年に40億円、13年に30億円の出資を受け子会社となったが、業績が回復するどころか19年にグループ会社との間で53億円の不透明な取引が生じ、不良債権処理に追われ今回の悲しい結末となった。
レナウンの破綻を受け、6月5日にスーツ製造子会社のダーバン宮崎ソーイング(本社:宮崎県日南市)が民事再生法による再建手続きを申請。だが9月24日、採算化が難しい国内縫製企業にはスポンサーがつかずに、同地裁より破産手続開始決定を受けた。
幸い子会社のレナウンインクスは、機能性肌着に強みをもち、しまむらとの共同開発のヒット商品もある。19年12月期の売上高は72億円で、純利益は3億円を計上。複数の肌着メーカーやファンドが興味を示していた。レナウンインクスのアツギへの売却額は明らかになっていない。業界筋によれば、事業譲渡をワールドやルックホールディングスなどの大手アパレルを含め商社関連、しまむらなどに打診したものの、反応はレナウン経営陣の期待をはるかに下回る冷淡なものであったという。
レナウンの経営陣は、この約30年間、自分たちが先人の築いた多様な資産を食い潰しただけの道楽息子でしかなかったと思い知ったのではないだろうか。レナウンの主な販売先は全国百貨店に展開する店舗網、顧客と共に年齢を重ねた販売員たちだが、経営陣は人員削減を繰り返すたびに、新たな目標や将来像を持っていたのか。アパレル業界は、この無責任な経営陣からしっかり学ばねばならない。
2.創業300年大阪船場の老舗小泉産業グループ
創業1716年の小泉産業グループは、ルーツを同じとする学習机のコイズミファニテック、照明器具のコイズミ照明、繊維資材メーカー小泉製麻などがある。現在の小泉産業グループはアパレルを中心とする企業グループだが、私見ながら、過去の成功体験が新たな挑戦を阻害している典型的な企業である。販路のGMS(総合スーパー)、百貨店の顧客層は40代以上であり、良くも悪くもレナウンの顧客層と重なる。
レナウンと小泉産業グループの譲渡交渉は、「アーノルド・パーマー」事業から始まったといわれる。小泉産業グループは2009年に破産した小杉産業から「ゴールデンベア」事業を引き継ぎ、17年度に売上169億円、経常利益16億円と素晴らしい業績を残し、グループ全体の利益額をも越えた。だが小泉産業グループの連結売上高は、14年度の531億円をピークに5期連続で減少し、19年度は423億円である。最終損益は12年度こそ41億円だったが、18年度以降は2期連続赤字、期待のコスギも減収減益である。
しかし、実質無借金経営で投資余力はある。レナウン側の管財人弁護士は永沢徹氏で、09年に破綻した小杉産業の管財人も務めた人物である。小泉産業グループの植木会長とのパイプも信頼関係もあった。当初に希望したアーノルド・パーマーの譲渡は、本国からの条件もあり残念ながら折り合わなかったが、主要5事業の譲渡契約締結を決断した。
日本MJ新聞のインタビューで植木会長は「今後、グループ各社で手掛けているECプラットフォームを、『モール』のような形で共通にする構想を考えている」、「自社のECモール比率はまだわずかなものでレナウンのECを取り込んで強化する」とも答えている。残念ながらレナウンのECは、客観的にみて売上比率、商品内容、販売方法のどれも成功とは程遠い。
9月30日をもってレナウンのECサイトは一旦サービスが停止された。在庫の見切り売場でしかなかったこのECを魅力あるサイトに再生させるのは容易ではない。ブランディングが決して得意とはいえない小泉産業グループにブランド再生の勝算はあるのであろうか。
3.小泉産業グループが譲渡ブランドを再生できる唯一の道
昨今の報道どおり、オンワードホールディングスの追加大量閉店を筆頭に、地方百貨店での撤退が続いている。たとえば福島県内最大の百貨店、うすい百貨店(郡山市)は1階にルイ・ヴィトン、ティファニーなどの高級ブランド店が出店している。しかし7月にはアクアスキュータム、8月には紳士服のカルバンクライン、婦人服の組曲、23区、自由区、iCBなどが閉店。地方の百貨店では売場を埋めるのに大変苦労している現状がある。
そこで発想を真逆にし、その地方百貨店の顧客である40歳以上にブランド認知があるレナウンブランドを大変革させて挑戦させてはどうか。商品企画は根底から変え、価格戦略的には、高い消化率を大幅に低く設定。ポップアップ店舖であっても出店条件の交渉余地は大きく、損益分岐点はぐっと低くなる。さらに、FacebookやLINEなどのSNSで毎日情報を配信する。地方テレビ局や地方新聞への広告出稿料金は大きく値下がりしている。まずは集客を地域の4大メディアでスタートし、SNS、そして見やすい自社ECサイトへの誘導を最終目標とする。
小泉産業グループには、生産、流通、販売機能はすでに揃っている。追加するのは、セグメントに合った商品企画、販売員へのSNS教育と強気の営業だけだ。この時期の出店なら、百貨店側からの協力も大きい。採算性の取れない都心の一流百貨店の売場からスタートするオールドスタイルは向かない。裏道かも知れないが、30万人から50万人の都市の百貨店をしっかりと攻めれば、ブルーオーシャンとなる可能性も充分ありえる。
まとめ
混迷のファッション業界でこそ「人の行く裏に道あり花の山」ではないだろうか。そこには近江商人の「三方良し」精神が生きる。売上の対前年比、シーズンMDなどを現実に照らし合わせて、白紙からブランド再建計画をたてることが求められている。大阪出身で船場の繊維問屋にさんざん鍛えられた著者である。小泉産業グループが今回のブランド譲渡をステップとして、新しい飛躍を遂げること祈念する。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)