なぜあの企業は、新型コロナ禍でも「特需」に沸いているのか?儲ける企業の共通点
新型コロナウイルス(COVID-19)は依然として収束が見えない。観光業界や飲食業界は深刻な状況が続き、個人経営のような零細企業は廃業に追い込まれているところも少なくない。それでも自粛疲れと「Go To」キャンペーンの効果などもあり、経済面では底打ちの兆しもある。しかし、これから冬に向かってコロナの猛威が再燃するリスクは消えておらず、予断を許さない。
コロナでは景気の二極化が進んだ。飲食店などの不振の一方で、テレワークやオンライン授業などが一気に普及してIT業界が活況化したのは典型的な例だろう。電機・エレクトロニクス業界でも明暗がはっきりしている。全体的には減収減益のところが多く、特に自動車市場向け部品メーカーなどは深刻な影響を受けているが、なかには伸びているところもある。
「明」の部分では、IT関連のほかにも、パソコン業界もWindows7のサポート終了に伴う特需が続いているほか、接触を避ける意味でのセンサの活用が見直されている。そしてタイミングよく業界を支えたのは、なんといっても「5G」だろう。5G関連の投資があったために、この時期2ケタ増収増益になっているところもある。
「暗」のほうでは、自動車市場の不振は厳しい。自動車は本来ならば「100年に一度の変革期」で、2020年4月にはレベル3までの自動運転が条件つきだが法律上解禁され、勢いがつくはずだったが、コロナの感染拡大によって水を差された。もともと昨年から米中貿易摩擦の影響などがあり、コロナがさらに誤算となった。
自動車業界は倒産、人員削減など続く
自動車市場の不振を浮き彫りにしたのが、自動車部品メーカー、イワヰ(名古屋市昭和区)の倒産だろう。イワヰは1926年創業、64年設立という老舗で、創業から数えると90年以上の業歴があったが、今年7月末に民事再生法を申請して倒産した。イワヰはプレス加工から溶接・組立まで行い、金型設計および製作を含めた一貫した加工を得意としてきた。自動車市場向けが主体で、自動車部品などの金属プレス加工を手掛けていた。
業績は赤字が続き、前期末では債務超過となるなど倒産寸前ではあったが、やはり今年に入ってからの新型コロナ感染拡大による自動車業界の低迷に最後で背中を押された感は否めない。
自動車関連では、上場会社の人員削減や工場体制の再編なども続いている。モーター部品など自動車や二輪車向け部品を手がけるミツバは、人員削減と2工場の閉鎖を行う。500人の募集人員で行った人員削減に対しては募集人員をさらに1割上回る549人が応募、彼らは今年10月末で退職する。
工場体制では、電動パワースライドドアなどを製造する新潟工場(新潟県南魚沼市:従業員数182人)を2021年9月、金属部品を製造する子会社の落合製作所(群馬県富岡市:同63人)を今年末に閉鎖する。ちなみに21年3月期の立ち上がりの第1四半期(4~6月)は、売上高が前年同期比でほぼ半減、最終欠損も54億5,900万円に達した(前年同期は2億1,400万円の赤字)。20年3月期も米中貿易摩擦の影響を受けて赤字で、厳しい経営環境が続く。
自動車の金属部品を手がけるタツミは、予定していた新工場建設を中止した。群馬県太田市の敷地3万1,000平方メートルに、延べ床面積4,000平方メートルという建物の新工場建設を予定していたが、コロナが深刻化して中止した。人員削減も行った。21年3月期第1四半期(4~6月)は、売上高が前年同期比45%減の8億8,200万円にとどまり、当期利益は2億2,200万円の赤字となっている。
曙ブレーキ工業も今年3月には人員削減を実施している。同社はコロナが深刻化する前から経営悪化が表面化して事業再生ADRまで申請しているので、コロナが原因ではないが、人員削減実施をこのタイミングで実施した。今年3月に希望退職者募集200人を募集、応募は154人だったが、別途自己都合退職者が32人いたため、結果的に人員削減はほぼ想定通りとなった。
同社は19年1月に事業再生ADRを申請、同年9月にその再生計画が成立しており、金融機関から有利子負債の5割に相当する総額560億円の債権放棄について同意を得ているほか、国内外の複数の工場閉鎖・縮小を決めている。
5G関連投資が牽引して半導体製造装置は好調
半面、5G投資に牽引されて業績が伸びている会社もある。なかでも半導体製造装置関連メーカーにおいては特需ともいえる状況のところもある。
半導体製造装置大手の東京エレクトロンは、前期の20年3月期は2ケタ減収減益だったが、コロナ感染拡大が深刻化した21年3月期は逆に2ケタ増収増益を予想する。期初にはコロナの影響が不透明として予想を「未定」としていたが、5G関連投資の拡大などを受けて、今年7月の段階で9月中間(4~9月)については、前年同期比で売上高は21.9%増、経常利益は19.0%増、当期利益は20.7%増といずれも2割前後の高い伸びを達成するという予想を示した。コロナ下で逆に大きく伸びるという見通し。今のところ下期はやや伸びが緩むとみているが、それでも通期では順に13.5%増、12.3%増、10.7%増の2ケタ増収増益を予想している。
エッチング装置など半導体製造装置関連を手がけるサムコも同様である。20年7月期売上高が対前期比18.9%増の58億6,900万円となり、経常利益は倍増の9億2,700万円、当期利益は3倍増の6億3,400万円となった。新型コロナウイルスの影響で新規の受注案件が一時的に停止するなど誤算があったにもかかわらず、CVD装置が2.2倍増で9億6,300万円の売上となるなど大きく伸びたほか、高周波デバイス、パワーデバイス、MEMS、各種センサ向け製造装置などが伸びている。
コロナはさまざまな業界で勝ち組と負け組を生んだが、電機・エレクトロニクス業界においても明暗が分かれる結果となっている。
(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)