進化し続ける日本のトイレは、今や「ものづくり大国ニッポン」の象徴というべき存在だ。日本にやってくる外国人観光客が、異常なほどハイテクで豪華な日本のトイレに驚いたという話はよく聞く上、少し前には中国人観光客によるシャワートイレ(温水洗浄便座)の“爆買い”が話題となった。
日本人ですら、最新のトイレを目の当たりにすると驚くほどだ。発売当初に度肝を抜かれた自動で便座のフタが開閉するトイレはもはや珍しくなく、掃除の手間を極端に省く清潔性・清掃性をうたうトイレも多く登場している。都心部の商業施設のトイレに至っては擬音装置でトイレの気配を感じさせないことにも力を注いでおり、最新機能を挙げればきりがない。
実は今年は、シャワートイレが国内で初めて生産されてから50年という、日本トイレ史にとって節目の年にあたる。なぜ、日本のトイレはこれほど進化したのだろうか。1967年に国産初のシャワートイレを発売したLIXIL(当時の伊奈製陶、後のINAX)の鳥越洋一郎氏に話を聞いた。
トイレを「トイレ以上の価値を持つ空間」と発想
鳥越氏によると、日本のトイレは現在も日々進化を遂げているのだという。
「弊社の最新商品を例に挙げると、水アカがつきにくい新開発の陶器『アクアセラミック』を使用したトイレ、シャープ社と共同開発したプラズマクラスターイオンを放出する鉢内除菌とルームリフレを可能にした商品などがあります」(鳥越氏)
もちろん海外メーカーも最新トイレを開発しているが、日本メーカーがリードしている状況は揺るがない。その大きな強みは、「海外メーカーにはない、日本のトイレメーカーの発想力」(同)だという。
「たとえば、着座した際に冷たく感じにくい暖房便座は2つの素材をはめ合わせてつくっていたため、必ず継ぎ目がありました。しかし、お客様から『継ぎ目の汚れが落としにくい』という声をいただいたことから、弊社では便座の継ぎ目をなくし、より掃除しやすい商品(キレイ便座)を開発するに至ったのです」(同)
日本のトイレは、トイレを「トイレ以上の価値を持つ空間」と考えたことから進化が始まった。
日本の最古のトイレは縄文時代早期、川に直接用便する「川屋」と呼ばれるものといわれる。これがトイレの別名「厠(かわや)」になったという説が有力だ。平安時代になると、水流で川に排出される仕組みのトイレが誕生するが、庶民の間では道路の側溝に垂れ流すことも多かったという。
「明治に入り、ようやく腰掛け式の洋風便器がつくられ、近代化にともなって水洗式の便器が輸入されるようになりました。そして、高度経済成長期に公団住宅が発足し、下水道が整備されてきたのをきっかけに洋風水洗便器が急速に普及していきます。1980~90年代頃が、日本における洋風便器のエポックといえるのではないでしょうか」(同)
もっとも、当時のトイレは「くさい」「汚い」「暗い」の「3K」で、家の間取り上も玄関から一番遠く離れた場所に設置するのが一般的だった。トイレの役割は「用を足せること」だけで十分で、それ以上の価値は必要なかったのである。