政府系金融機関、商工組合中央金庫(商工中金)が不正な融資を繰り返していた問題で、経済産業省と財務省は行政処分をする検討に入った。商工中金では99人が関与し、取引先の書類を改竄していた。不正行為にかかわる融資実行額は現時点で約200億円で、本来国から受けられない利子補給額は約1億3000万円にも上る。さらに膨らむ可能性がある。
まず、商工中金の役割について、金融ジャーナリストの森岡英樹氏はこう解説する。
「商工中金は、政府と民間団体が共同で出資する、半官半民の政府系金融機関です。中小企業金融の円滑化を目的として、預金の受け入れ、資金の移動や貸し付けなど、民間の金融機関ではなかなか対応できないことを補完するという役割を持っています」
商工中金の役割のひとつに、危機対応貸出というものがある。台風や地震といった突発的な自然災害などにより業績が悪化した中堅・中小企業に、運転資金を貸し出す制度だ。
「今回の問題は、まったく危機的でない企業に融資が流れていたという点です。これは企業側の要請に応じたということではなくて、商工中金からの働きかけによります。なぜ商工中金がそのようなことをするかというと、完全民営化をされたくないからです。民営化されると、天下りを始めとしたさまざまな特権がなくなってしまいますからね。民営化をされないために、無理な融資をして実績をつくっていたのです。職員には、ノルマが課せられていました」
民間の金融機関であれば、優良な企業には融資して、危機的企業には融資しない。危機的ではない企業に融資することで、どのような問題が生じるのか。
「融資を始めた当初は危機的ではなくても、途中から危機的になって、最終的にこげつく融資先企業もあります。銀行は企業からさまざまな財務証書を入手して、先行きの収支見通しを聞いて、融資可否の判断をしますが、実績づくりのため“貸し付けありき”になってしまい、結局無理に貸しているわけです。商工中金にも貸せない先に貸してしまっているケースが多い。こげついた場合は国が8割補填してくれるので、商工中金の腹はそんなに痛まない。国の補填というのは、原資は税金なので、国民に負担のつけが回っていくということです」
他の政府系金融機関で起こる可能性は?
問題を調査していた第三者委員会は25日、結果を発表した。融資要件に合うように取引先の財務諸表の売上高や純利益を改竄するなどの不正行為が、全国35支店で計816件見つかったと指摘された。一方、第三者委は「経営陣による直接的な隠蔽の指示はなかった」と結論づけた。商工中金は安達健祐社長らが役員報酬の一部を自主返納すると発表した。では、他の政府系金融機関でも同じようなことが起こる可能性はあるのだろうか。
「日本政策金融公庫、日本政策投資銀行、国際協力銀行などは、国の施策に則って融資を行っているので、今回のような問題は起こりにくいでしょう。改竄を行うのは、かなり難しい。ただ、海外のプロジェクトに融資して最終的に頓挫してしまった場合などに、責任の所在が曖昧になってしまい、それが国民負担になるということはあり得ます」
多額の税金が投入される政府系金融機関ゆえに、今回のような不正行為の発生を防ぐためにも、チェック機能の強化が求められているといえよう。
(文=深笛義也/ライター)