大手自動車メーカーに環境対応車の販売割合を義務付けている米国カリフォルニア州のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制では、2018年モデルからHVは環境対応車の対象外となる。環境対応車の一定の販売比率を義務付けられる予定の中国の新エネルギー車でもHVは対象外となる見通しで、環境車戦略でトヨタの誤算は明らかだ。
米国ZEV規制では、環境対応車の販売比率が未達成の自動車メーカーは、当局に罰金を払うか、クレジット(ZEV排出枠)を他の自動車メーカーから購入する必要がある。EV専業のテスラは多額のクレジットをライバルの自動車メーカーに売却することで収益を確保、これによって収益が黒字となっているといわれる。トヨタはHV「プリウス」の販売でクレジットを販売してきたが、14年からはHVの販売が苦戦し、クレジットを購入しているとみられる。
18年モデルからHVが環境対応車として除外されるため、トヨタはさらにクレジットを購入しなければならなくなる。つまりクレジットを大量に持つテスラの成長をトヨタが支えることになるわけだ。
テスラの逆襲
HVが環境対応車として認められなくなっている状況にトヨタも焦りを持っている。グローバルでEVがもてはやされているなか、トヨタは16年末になってからやっとEVの開発に本腰を入れ始めた。大幅に出遅れただけに、グループのデンソー、アイシン精機、豊田自動織機から人材を急遽かき集めた組織「EV事業企画室」を新設、量産型EVの開発を急ぐ。このトヨタのEV新組織立ち上げの時期と、テスラの株式売却時期が一致するのは「トヨタがベンチャー企業と見て、上から目線で『育成する』つもりだったテスラをライバルとして見るようになったことの証し」(自動車担当記者)でもある。
グローバルでのEV市場の本格的な立ち上がりを想定してなのか、テスラはすでに時価総額でGMや米フォード・モーターを上回る全米トップの自動車メーカーとなっている。テスラの16年の新車販売は7万6230台で過去最高となった。年間新車販売が1000万台クラスのトヨタとの比較では「蟻と巨象」の関係だ。それでもテスラが今夏に量産開始する予定の低価格車「モデル3」は初期受注で40万台を獲得、急成長を遂げる可能性を示している。
一方、トヨタの態度豹変を受けてテスラも逆襲に出る。トヨタのお膝元である愛知・名古屋市に中部地方で初となる直営店を6月にオープンした。愛知県内は登録車のトヨタ車のシェアが6割を占める牙城だ。この市場に挑むことで「古い自動車メーカーの代表格であるトヨタ」に挑む。
「たかがベンチャー」と気軽に提携した相手の急成長や、取り巻く経営環境の先読みの誤算によって、ライバルとなったテスラとの関係解消を余儀なくされたトヨタ。自動運転や車の電動化対応で他社と連携するオープンイノベーションを進めて、脱・自前主義を掲げるが、「巨大企業を自負して相手を見下した態度で提携するようでは、高い代償を支払う」(全国紙・経済部デスク)ことになりかねない。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)