東芝は6月21日、東芝メモリの売却について、官民ファンドの産業革新機構などでつくる日米韓連合と優先的に交渉を進める方針を取締役会で決めた。
革新機構のほか政府系の日本政策投資銀行、米投資ファンドのベインキャピタル、韓国半導体大手SKハイニックスなどが参加し、東芝メモリを2兆円規模で買収する案を提示している。
しかし、三重県四日市市の半導体工場を共同運営する米ウエスタンデジタル(WD)は、東芝メモリの売却に反対の姿勢を崩していない。WDが訴えている米国の裁判所の判断によっては日米韓連合との交渉が破談になる懸念も残されている。
というのも、日米韓連合の中核を成す革新機構や政投銀は出資の条件として「WDとの対立解消」を挙げているからだ。
米原発事業で巨額損失を出し債務超過に陥った東芝は、2018年3月末までに債務超過を解消しないと、東京証券取引所から上場廃止となる。6月28日の株主総会までに売却合意を目指したが、東芝メモリの売却は先送りとなった。またまた東芝の経営陣は公約に違反したことになる。
実は、日米韓連合に優先交渉権を与える数日前まで、大本命は米半導体大手、ブロードコムだった。ブロードコムは、米投資ファンドのシルバーレイクと組んで入札に参加。5月19日にあった2次入札では、買収金額を2兆2000億円規模とし、その後の継続投資を約束するなど、破格の好条件を示した。東芝がつくる半導体メモリとは別の通信向け半導体の大手と業務が重複しておらず、各国独禁当局の審査で、同業による買収より時間がかからないと指摘されている。東芝は好条件を示したブロードコムに優先交渉権を与える方向で、水面下で調整していた。
ブロードコムが買収を保留したワケ
ところが、ブロードコムが突如、判断を先送りした。WDは売却手続きの中止を国際仲裁裁判所に申し立て、WDがライバル視するブロードコムへの売却に強く反発したからだ。
東芝はブロードコムに優先交渉権を与えた上で、WDとの着地点を探りたいと考えていたフシがある。
WDは5月に国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てていたが、6月14日に米カリフォルニア州の上級裁判所に売却差し止めの訴訟を起こし、東芝を追撃した。東芝が、革新機構陣営に優先交渉権を与えることを決めたことを受けて、「東芝は我々の拒否権と進行中の2つの法的手続きを無視している」と激しく批判する声明を出した。
WDが米国の上級裁判所に提訴したのをみて、ブロードコムは7月14日に予定されている審査結果が出るまで「買収提案を保留する」と東芝に伝えてきた。6月28日の株主総会までに買い手候補を絞り込みたい東芝がブロードコムの先送り提案を受け入れられるはずがなかった。
大本命のブロードコムは、なぜ土壇場になって東芝メモリ争奪戦から下りたのだろうか。
『日経ヴェリタス』(17年6月25日号)はこう報じている。
「事情通は、『ブロードコムの取締役会がブレーキをかけたのでは』と言っていたよ。WDとの訴訟リスクを丸ごと引き受けて買収するのは上場企業としてリスクが大きすぎるし、具体策も不明だ」
大本命が消え、革新機構が主導する日米韓連合にお鉢が回ってきた。いわば、タナボタで転がりこんできたのだ。
(文=編集部)