――若手の現場監督に必要なことはなんでしょうか。
Aさん 休暇を取得させるとか強度なプレッシャーを除いてあげることが大切ですが、歳の近い、同僚や上司が必要ですね。それも「クラッシャー上司」のように部下を潰す上司ではなく、悩みを心から聞いてくれる上司が必要です。メンタル面で癒やしてくれる上司が望ましい。私も50歳を超えていますが、自分が指導する現場監督の歳は20代前半で、子どものような歳の現場監督にどう指導したらいいのか模索中です。なるべく優しく接しているつもりではありますが、ギャップは感じています。
――時間外労働212時間というのは、ほかの現場でもよくあることなのでしょうか。
Aさん 100時間超えは、現実によくある話です。現場の一日は、朝礼が8時ですから朝7時に現場事務所にいます。現場で職人に指示したり、写真撮影したり、安全対策したり、いろいろな作業があります。現場は日々変わる「生モノ」ですから、行うことも日々変化します。夜は書類作成です。書類作成のため、パソコンを使って、場合によっては夜中の2時まで作業していることもありますね。土曜日も現場は稼働していますから、身体をリフレッシュする時間帯は本当に少ないです。
無理な工期・コスト押し付け
――今回亡くなられた方の遺書を読んで、どう感じましたか。
Aさん 遺書には、「突然このような形をとってしまい、もうしわけございません。身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」というメモがありました。この子は心底まじめで責任感が強い子だなと感じました。これは想像ですが、工期が遅れたのは現場監督の責任ではないですが、自分の責任と受け止めたのでしょう。ひたすら悲しいです。しかし、本当の責任は別のところにあります。
――責任はどこにあると思いますか。
Aさん 責任は国であり、大成建設ジョイントベンチャー(JV)です。そしてこの下請の建設会社も悪質性が高いでしょうね。
――具体的には。
Aさん 新国立競技場は2020年東京オリンピックのメイン会場です。当初は、イギリスのザハ案の設計で工事が進むとされてきましたが、ザハ案では工事ができないということがわかり白紙化されました。日本スポーツ振興センター(JSC)の入札不手際により、解体工事が遅れ、さらに着工が遅れました。新国立競技場は設計・施工一体型で、ゼネコンと設計会社のJVである大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JVが担当しています。