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富士急ハイランド、存続の危機…富士急行、山梨県有地「格安賃料」で賃借のタブー

文=編集部
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富士急ハイランド(「Wikipedia」より)

 富士急行を経営する堀内家と長崎幸太郎・山梨県知事の対立が再燃した。山梨県が富士急行に貸している県有地の賃料が不当に安いとして争われていた住民訴訟の口頭弁論が2020年11月10日、甲府地裁で開かれ、被告の県が一転して原告に同調し、「賃料は現在の6倍の年間20億円が適正」との鑑定結果を提出した。

 問題の県有地は山中湖村にあり、県が1927年から富士急行に貸し出している。同社は別荘地やゴルフ場として開発し、一般顧客に転貸してきた。その開発規模は約3300区画にのぼり、富士急のホームページ上では「お求めやすい価格で購入可能」などと宣伝されている。

 県は2017年に東京ドーム94個分の約440ヘクタールの土地を20年間貸し出す契約を締結。賃料は3年ごとに更新し、同年は年額約3億2530万円。南アルプス市の男性が「県が歴代知事に適正な賃料との差額を支払わせるよう」求めて提訴した。県は当初、争う姿勢だったが、20年8月、方針を転換した。

 口頭弁論では県側は「賃料は年額約20億円が適正」とする鑑定結果とともに、「適正な対価のない賃貸借契約は違法無効」との準備書面を提出した。男性の弁護士は閉廷後、「双方の主張が合致した」と評価。原告の主張に被告が同調するという異例の展開となった。県は和解を申し入れる方針だ。

 収まらないのが、訴訟当事者ではないが補助参加人として参加している富士急行だ。「これまで法令にのっとり賃貸契約を交わしている。もし一方的に契約をないがしろにするなら長崎幸太郎知事を提訴することもやむをえないと考える」とのコメントを発表した。

長崎氏と堀内家の15年戦争

 河野太郎行革相の「ハンコ廃止」に噛みつき、“ハンコ知事”として全国的に名を馳せた長崎知事と、富士急の堀内光一郎社長、その妻の堀内詔子(のりこ)衆院議員の対立は15年戦争と呼ばれている。

 堀内家は4代続けて国会議員を出している山梨県の名門一家。光一郎社長の父で2016年に亡くなった堀内光雄氏は自民党総務会長や通産相を歴任した県政界の大物。富士急の会長を務めた。

 一方、長崎氏は東大法学部卒で財務省出身。05年に退官後、光雄氏と同じ山梨2区から自民党公認で、郵政解散による衆院選に同年初出馬した。小泉純一郎首相が提出した郵政法案に反対票を投じたため、光雄氏は無所属で出馬せざるを得なかった。間隙を突いて長崎氏が刺客として送り込まれた。小泉旋風が吹き荒れるなか、長崎氏は選挙区では惜敗したものの比例で復活当選を果たした。

 09年、長崎氏は光雄氏との公認争いに敗れて自民党を離党。光雄氏の後継となった詔子氏と、12年から3回にわたり闘い、全国でも有数の激しい選挙戦が繰り広げられてきた。それがピークに達したのが17年の衆院選。無所属議員ながら二階派に属していた長崎氏と、岸田派所属の詔子氏が3度目の対決となった。二階俊博幹事長が「勝ったほうを公認する」としたため詔子氏も無所属で出馬。保守分裂の二階派、岸田派の代理戦争となった。

 長崎氏は県有地の賃料是正を「公約の1丁目1番地」としたが落選。それでも二階氏の差配で「幹事長政策補佐」となり、自民党の役職に就いた。長崎氏は19年1月の知事選に出馬。二階氏や岸田派の重鎮、古賀誠氏の仲介で双方が和解。自民党が一本化した結果、長崎氏が当選した。そして、知事に就任した長崎氏は、かねてからの持論である県有地の賃料是正のカードを切ったのである。

21年3月期決算はコロナ禍で赤字に転落

 富士急行は18年7月、テーマパーク「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)の入園料の無料化に踏み切り、来園者が増加した。この効果でアトラクションやホテル、飲食店などの収入が増えた。高速バス事業はインバウンド(訪日客)需要で好調。静岡県・三島駅と富士山周辺を結ぶ路線で乗客数を伸ばした。19年3月期の連結決算の売上高は過去最高の544億円を記録。営業利益は近年では最高の61億円をあげた。

 だが、コロナ禍で暗転する。21年3月期の業績予想は売上高が前期比38%減の322億円に激減、営業損益は23億円の赤字(前期は44億円の黒字)、最終損益は22億円の赤字(同15億円の黒字)に転落する見込み。上半期に「富士急ハイランド」が臨時休業したのが響いた。そのため鉄道やバスの利用客も落ち込んだ。

 下半期は政府の観光支援策「Go To トラベル」効果で最終黒字を見込んでいた。しかし新型コロナの感染再拡大や「Go To トラベル」の停止は業績に織り込まれていない。21年3月期決算の下方修正は避けられないだろう。

賃貸条件の見直しで17億円の追加負担を迫られる

 県保有地の富士急向け賃貸条件の見直しで賃料が3億円から20億円へと6.7倍になれば、富士急は17億円の追加負担を求められることになる。大打撃になるのは間違いない。 富士急の経営は鉄道・バスの運輸、富士急ハイランドのレジャー・サービス、ゴルフ場・別荘地の不動産が3本柱である。

 20年4~9月期決算は、運輸事業は23億円の営業赤字、レジャー・サービスも13億円の営業赤字。唯一、不動産事業が4億円の営業黒字だった。不動産事業が業績を下支えしているといっても過言ではない。

 賃料が上がれば、単純計算で年間で17億円の営業利益の減少が見込まれ、不動産事業が赤字転落の危機に見舞われる。富士急としては賃料の値上げは絶対に呑めない。とはいえ県から割安の価格で土地を借り、造成した別荘地を転貸して稼いできたことには、かねてから批判が強かった。どう決着をつけるのか。

 絶叫マシンで若者に大人気の富士急ハイランドは存続の危機を迎えた。

(文=編集部)

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