「日本人は勤勉で働き者」は本当か?先進国でもっとも低い労働生産性、産業の構造的問題点
自民党の一億総活躍推進本部が、週休3日選択制を政府に提言するというニュースが聞こえてきた。正社員のなかで希望する者がいれば、理由にかかわらず週休3日制を選択できるという内容のようだ。給与は2割減となるが、副業や兼業によって1.5倍の所得になることを想定している。そのほか、子育て、介護、病気療養、大学院進学、ボランティア活動などに取り組みやすい環境の整備を目指すとのこと。
このように多くのメリットが見込まれる一方、「有給休暇も消化できない現状では実現困難」「賃金値下げなどリストラに利用されるだけではないか」といった批判的な声も聞こえてくる。みなさんは週休3日選択制について、どう思われるだろうか。
ところで、「日本人は働き者で勤勉である」と、今も多くの日本人は思っているようだが、本当にそうなのだろうか。
こうした議論において、しばしば「労働生産性」の国際比較が取り上げられるが、日本は主要先進7カ国のなかで最下位という状況が長きにわたり続いている。このような事態に関して、日本は伝統的に共同体的意識が強く、また上下関係も厳しいため、たとえば上司や職場先輩を気にして、なかなか帰宅できないといったことが指摘される。
もちろん、こうした要因の影響を否定するつもりはないが、建設的な視点とは言いがたく、産業構造と個人のモチベーションという2つの視点より日本の労働生産性について考えてみたい。なお、今回は産業構造的視点について検討し、個人のモチベーションの視点については次回に考察することとする。
日本の労働生産性の低さ、産業構造的視点で検討
米国滞在中に訪れたシアトルのボーイング工場は、実に衝撃的であった。スターバックスのコーヒーを片手に談笑しているスタッフをはじめ、実に牧歌的であった。一方、日本では自動車工場をはじめ、作業者の一つひとつの作業を細分化し、それらを積み上げて必要時間を決定することにより、無理や無駄なく生産が行えるように、精緻なマネジメントが厳格に実行されるケースが目立つ。生産現場において、「足は価値を生まない、いかに常に手が動いているかが重要」といった具合である。
結果、日本の作業員は常に手が動き、見た目にはテキパキと業務をこなし、生産性も高そうに思える。しかしながら、国際比較において労働生産性は「GDP/就業者数(または就業者数×労働時間)」で計られる。つまり、分子は単なる生産量ではなく、付加価値額(新たに生み出した金銭的な価値)である。もちろん、国の経済や企業の経営などを検討する際、後者のほうがより重要となる。
ボーイングが生産しているものは、みなさんご存じの通り、大型旅客機であり、極めて高額な商品である。よって、たとえば少々作業に無駄があろうが、そうしたことを吹き飛ばすのに十分値する付加価値を生み出しているわけである。さらに現在、国際市場において信頼できる大型旅客機メーカーは、ヨーロッパのエアバスとボーイングの2社しか存在せず、自動車ほどの価格競争は生じていないと考えられる。
よく指摘されることだが、戦後の日本は人件費も安く、週に1日の休暇で、長期休暇もなく、開発や生産における貪欲な改善により、テレビや自動車など、これまで欧米をキャッチアップし、追い越してきた。しかしながら、韓国や中国など東アジアを中心に、コスト優位性に優れた多くのコンペティタが存在する現状において、もはやこうしたモデルは通用しなくなってきている。
よって、大きな利益創出につながるイノベーティブな商品への着手、また激しい低価格競争を回避するための前向きな企業合併などに、より一層精力的に取り組む必要があるのではないか。家電や自動車など、現在の日本の企業数はあまりに過剰であり、不毛な値切り合戦が横行しているように思えてならない。もちろん、こうした客との価格交渉も労働生産性を引き下げる要因となる。つまり、個人の問題以前に、業界の構造や企業の儲け方といった、より構造的なポイントが日本の労働生産性を検討する際に重要となる。
しかしながら、先の指摘と矛盾するようだが、もちろん個人の問題も見逃せない。次回は個人のモチベーションの視点から、日本の労働生産性の低さについて検討する。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)
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