Twitterで新聞記者がアカウントを持ち、活発に言論活動を展開する姿をよく目にするようになった。とくに朝日新聞の記者は、会社からSNSの使用を推奨されているということもあり、多くの記者がTwitterで活発に発言を続けている。朝日新聞社広報部にその理由について尋ねると、このような回答が寄せられた。
「記者個人のツイッターアカウントから、記事としては発信できなかった情報や、記者独自の視点・論点、お勧め記事などを発信することで、朝日新聞記者や朝日新聞社の価値を感じてもらえると考えているからです。また双方向性を利用し、社会の多様な価値や意見に耳を傾けたり、取材に使ったりしています」
炎上も覚悟
新聞離れが進む今、新聞とその記者の価値を多くの人に知ってもらうことは重要だ。朝日は記者個人と読者の「親密性」も大事にしている。
「個人アカウントのほうが読者との距離も近く、密度の高いコミュニティーができやすいと思います。こうしたコミュニティーは、紙の新聞やデジタル版の読者らと並び、私たちにとって大切な存在です」(同)
確かに、朝日記者のツイートを読むことにより、朝日に対して親しみを感じる。しかし、朝日はネット上ではバッシングの対象になることも多いが、それも覚悟の上のことなのだという。
「炎上のリスクがあることは承知しています。朝日新聞社としてはそうしたリスクを上回るメリットがあると考え、『ともに考え、ともにつくる』という弊社の理念に沿った形で個人アカウントの利用を推進しています」
ちなみに、朝日記者のTwitterアカウント、とくに個人アカウントは、会社の許可などが必要なのだろうか。
「記者が個人アカウントから、仕事に密接に関係する情報を発信する場合には、『公認』という手続きをとってもらうことにしています」
「ソーシャルメディアに対する適性などを見て所属長が推薦した上で、ゼネラルマネージャーを委員長とするソーシャルメディア委員会で承認されると『公認』となり、朝日新聞デジタルのリストに掲載されます」
それなりに信用が置ける社員でないと、「公認」という扱いにはできないのだ。その公認アカウントは、約200あるという。しっかりとした会社としてのサポートもある。
「ソーシャルメディアエディターを中心にしたメンバーが、『公認』ではない個人アカウントやグループアカウントも含めて広くサポートしています」
公認ではなくとも、朝日記者にはTwitterアカウントを持っている人が多くおり、さまざまな活動を繰り広げている。会社からのサポートがあるなかで活発に活動しており、「自由な言論」を感じることができる。
読売の「記者SNS禁止」は本当か?
一方、読売新聞は記者個人のSNSが禁止されている、という話がよく聞かれる。元読売記者で現在はBuzzFeed JapanのNews Editorを務める岩永直子氏は、「私、読売新聞時代、個人ツイッター禁止されていましたが」ともつぶやいている。
そこで読売新聞グループ本社広報部に問い合わせたところ、「当社が、『新聞記者のSNS個人アカウントを禁止している』という事実はありません」という回答が寄せられた。
新聞記者にとって、「言論の自由」は何よりも大切な自由である。記者はジャーナリストとしての職責を果たすために、さまざまなかたちでの発信が必要である。記者個人の「言論の自由」があってはじめて新聞の自由というものが成り立つのであり、その自由があることが民主主義社会の健全な発展につながる。
しかも読売は、会社の基本理念である「読売信条」で「読売新聞は責任ある自由を追求する。個人の尊厳と基本的人権に基づく人間主義をめざす」と掲げている。
そういった観点から、記者がSNS上で自由な言論活動を行ってもいいはずである。読売では、記者個人のSNSアカウントは(少なくとも筆者に回答した限りでは)「禁止」ではないのである。個人の発信を認めることは、記者の尊厳を認めることである。ならば、読売記者にはぜひSNSの世界に足を踏み入れてほしい。ぜひSNSにもさまざまなことを書いてほしい。もし今の若い記者が自由な言論とは何か、ということがわからないのであれば、読売の言論活動の最高責任者である主筆という立場にあり、かつて自由を愛する哲学青年だった渡邉恒雄氏から、SNSでの発信を始めてほしい。
(文=小林拓矢/フリーライター)