ベネッセホールディングス(HD)は10月2日、子会社でコールセンター事業を手掛けるTMJの保有している全株式を159億円でセコムに売却した。2018年3月期に、125億円の特別利益を計上する。非中核事業を切り離すことで、選択と集中を本格化させる狙いだ。
TMJは1992年4月設立。資本金は3億円で、ベネッセHDが60%、丸紅が40%出資した。従業員は526名で、センタースタッフは1万600名いる。ベネッセHDが保有する全株式をセコムに譲渡し、TMJはセコムと丸紅の共同経営に移行した。
TMJはベネッセグループの通信教育講座「こどもちゃれんじ」「進研ゼミ」のコールセンター業務だけでなく、グループ以外のコールセンター業務やアウトソーシング業務など、事業を拡大してきた。17年3月期決算の売上高は311億円、営業利益14億円、純利益9億円を上げていた。現在では、売り上げはグループ以外が7割以上を占めている。
ベネッセHDは、株式譲渡後もTMJと取引関係を維持し、こどもちゃれんじ等のコールセンター業務やアウトソーシング業務を委託する。
進研ゼミの会員数、5年ぶりに回復
ベネッセHDは、14年に顧客情報の漏洩が発覚した影響で、主力の通信教育事業の不振が続き、15年3月期は107億円、16年同期は82億円と、2期連続の最終赤字に追い込まれた。その責任を取って16年6月、「プロ経営者」として三顧の礼をもって招いた原田泳幸氏が会長兼社長を辞任。社内が混乱するなか、同年10月に社外取締役だった安達保氏が社長に就いた。
安達氏は、世界有数の投資ファンドである米カーライルの日本法人代表を13年間務めるなど、金融のプロだ。進研ゼミに依存した事業構造からバランスのとれたものに転換することを目指して事業の選択と集中に取り組み、その一方でM&A(合併・買収)を積極的に活用することを重点戦略に掲げた。
安達氏が真っ先に着手したのは、ベネッセHDの主柱である通信教育事業、進研ゼミの立て直しだ。高校生向け講座を紙の教材とスマートフォンの併用にするなど、サービスを大幅に刷新。情報漏洩以前に300万人以上いた会員は243万人まで激減したが、今年4月時点で245万人と、微増ではあるが5年ぶりにプラスに転換した。20年に会員数300万人への復帰を目標としている。
主力の進研ゼミにテコ入れしたことにより、業績は回復してきた。17年4~6月期の連結決算の営業利益は12億円の黒字(前年同期は7億円の赤字)となった。最終損益は4800万円の赤字と、まだ水面下にあるが前年の29億円の赤字から急回復した。
進研ゼミの4~6月の延べ在籍数は712万人で、前年より10万人増えた。特に伸びたのは、中学生向けだ。専用のタブレット端末を用意する施策が奏功した。その結果、国内教育事業の営業利益は、前年の16億円の赤字から8億円の黒字にV字回復をみせた。
18年3月期の連結決算は、強気の見通しを立てている。売上高は前期比6%増の4548億円、営業利益は85%増の142億円、純利益は55%増の55億円の見通しだ。TMJの株式売却による125億円の特別利益が最終増益の原動力になる。
国内教育事業の売上高は2041億円で、前年より96億円の増収。営業利益は92億円と、実に75億円の増益を見込んでいる。
語学事業は足を引っ張る。営業赤字は22億円で、前年より赤字額が17億円増える。語学教育ベルリッツの減収に加え、構造改革費用がかさむためだ。今期中に止血し、来期以降の黒字転換を目指すとしている。
進研ゼミの立て直しにメドがついたことで、教育や介護に続く第3の柱を育てる方針だ。
16年11月、ペットに関する情報サイト「ペット生活」を運営するヴェイプスの発行済み株式の35.2%を取得した。ペット関連市場が拡大するなか、ペットを飼う人に向けたサービスや広告を拡充し、収益基盤を広げるのが狙いだ。
安達社長は大型M&Aを口にしている。復調したベネッセが、どの分野で大型M&Aに打って出るのかに関心が集まる。
コールセンターの売却は、非中核事業を切り離す第1弾だ。身軽になって新たな成長分野の鉱脈を掘り当てることに集中するほか、海外進出も視野に入れている。
(文=編集部)