吉野家ホールディングス(HD)の2017年3〜8月期連結決算は、売上高が前年同期比4.5%増の976億円、本業の儲けも示す営業利益は2.3倍の21億円だった。続く9月も好調で、全店売上高は前年同月比4.5%増となっている。
吉野家は近年、面白い取り組みが目立つ。「牛丼一筋」をうたうなど、販促には頼らないで商品力だけで勝負するという頑固なイメージが強いが、それが変わってきているように思える。そして、そのことが好調な業績を支えていそうだ。たとえば、9月に数量限定で発売した「吉野家⇔はなまる『はしご定期券』」がそのひとつだ。
「はしご定期券」の購入には300円かかるが、これが1枚あれば何人でも何食でも、吉野家では牛丼や定食などが80円引きになり、系列店の「はなまるうどん」ではうどん1杯ごとに好きな天ぷらが1品無料になる。期間内であれば繰り返し何度でも利用が可能だ。ただし、テイクアウトは1回につき最大3食までとなる。
吉野家は「史上最大の割引」とうたっている。確かにかなりお得だ。利用できる期間は39日間だが、吉野家で1人が毎日牛丼を1杯食べると総額3120円の値引きとなる。はなまるうどんでは、たとえば140円の「かき揚げ」を毎日食べれば5460円分が無料となる。複数人で利用したり、1日に何度も利用すれば、さらにお得になる。
はなまるうどんでは今春、天ぷらが1品無料になる「天ぷら定期券」を発売したが、約13万枚を販売し客数の底上げにつながったという。天ぷら定期券効果もあり、17年3〜5月期のはなまるの売上高は前年比14.5%増、営業利益が82.6%増となる大幅な増収増益を実現した。
はなまるうどんの天ぷら定期券が好評だったこともあり、天ぷら定期券に吉野家で割引になるサービスも加えるかたちで、はしご定期券を販売するに至った。吉野家では9月の全店売上高が前年同月比で4.5%増加し、客数は4.0%増加したが、はしご定期券が大きく貢献したと考えられる。
はしご定期券は、吉野家HD1社で吉野家とはなまるうどんを展開しているからこそできる販促だろう。それぞれ単独で行うよりも効果は高いといえる。吉野家とはなまるうどんの間で送客もできたのではないか。特に、はなまるうどんは吉野家ほど知名度が高くないため、吉野家からの送客効果がより大きかったと考えられる。
はしご定期券は、牛丼店とうどん店の両方で使えるというのがポイントだろう。吉野家の牛丼を愛する人は少なくないが、ヘビーユーザーでもたまには牛丼以外のものを食べたくなるものだ。吉野家では非牛丼メニューも充実してきているが、やはりそれでも飽きてしまう。そういった理由で客が他社の飲食店に流れてしまうケースもあるだろう。
はしご定期券は、そういった客に対し、うどんという新たな選択肢を提示することができる。“汁物”というのがポイントだ。汁物であるうどんは、喉が乾きやすい牛丼の補完的位置づけにあると考えることができる。牛丼と同じように喉が乾くものよりも、うどんなどの汁物のほうが牛丼の代替メニューとして提案しやすい。客を飽きさせず、かつ自社で送客し合うことができるのだ。