川崎重工と三井造船が経営統合を検討する背景には、来年、新たに造る船がほぼなくなる「2014年問題」がある。造船各社は歴史的な危機を迎えている。
日本の造船業は50年代後半以降、大型タンカーなどを大量受注。5割を超える世界シェアを長く維持して「造船王国ニッポン」の名をほしいままにしてきた。70年代半ばの第1次石油ショック、80年代の急激な円高という2度の大不況をリストラで乗り切り、00年前半までは建造量でトップの座を守ってきた。
だが、08年秋のリーマン・ショックを機に、受注は激減した。世界的な市場縮小に加え、中国と韓国の造船所が安値受注を武器に攻勢をかけてきた。日本のメーカーは円高が逆風となり、新規受注競争で連敗が続いた。
英IHS(旧ロイド)の統計に基づき、日本造船工業会がまとめた12年の世界船舶受注実績によると、07年には1億6960万総トンあった受注量が、12年には3843万総トンとピーク時の4分の1以下に激減した。
国別の受注量では中国が2年ぶりにトップに返り咲き、韓国は首位の座を明け渡した。中国と韓国で世界シェアの68%を占める。日本は7年連続3位で841万総トンだった。
以前からの受注分を含めた手持ち工事は中国がトップで、韓国が2位。日本は6年連続3位で2582万総トン。前年より25%も減った。
川崎重工と三井造船の統合が実現すれば、造船・重機業界で三菱重工業に次ぐ巨大企業が誕生する。60年に石川島播磨重工業(現IHI)が発足して以来の大型再編となる。
川崎重工の13年3月期の連結業績の売上高は前年同期比1.1%減の1兆2889億円、当期純利益は同32.3%増の309億円。一方、三井造船は売上高が同0.9%増の5771億円、当期損益は82億円の赤字(前年は179億円の黒字)となった。
三菱重工の同期の売上高は、同0.1%減の2兆8179億円、当期純利益は同4倍の973億円。川崎重工と三井造船の売り上げを単純に合算すれば1兆8660億円となり、三菱重工に次ぐ規模になる。
統合の効果を疑問視する見方がある。三井造船は連結売上高に占める造船・海洋部門の売上高が過半に達している、いわば造船の専業メーカー。一方、川崎重工は造船・海洋部門は連結売り上げの1割を切る。航空宇宙や鉄道車両、ガスタービン・発電設備などが主力だ。一般消費者向けには大型バイクを手掛けており、造船より売り上げは大きい(連結売り上げに占める比率は18%)。
川崎重工にとって、三井造船と統合するメリットはそれほどないといっていい。造船事業を統合しても、韓国・中国勢に勝ち目はないからだ。
それでは、統合の狙いはどこにあるのか?
成長分野として注目を集めている海洋開発事業だ。海底の石油やメタン・ハイドレート(海底深くにあるメタン水和物)などの資源を採掘するための、専用の船舶や海上設備を建造する事業を指す。
三井造船の連結子会社の三井海洋開発は、海底油田開発のための浮体式の洋上設備に特化している。川崎重工は12年に30%出資したブラジルの造船会社を通じて、ブラジル沖の海底油田開発事業の受注を目指している。
海洋開発事業の市場規模は、造船とほぼ同じの6兆円(11年)。20年には11兆円にまで成長するとの試算もある。11年の海洋開発の国別シェアはトップが韓国の39%。中国は3位で14%。いずれも国策で事業の拡大を進めてきた。これに対して日本はわずか1%にすぎない。日本のエネルギー会社が海洋資源開発プロジェクトを進める場合でも、洋上設備の建造は韓国や中国の造船所に任せるという。