(撮影:Dave Sizer「Wikipedia」より)
これは、見切り発車ではないのか。
787は1月、米ボストン国際空港に駐機していた日本航空(JAL)のバッテリーから発火した。その直後に、飛行中の全日本空輸(ANA)機が煙を出し、高松空港に緊急着陸するトラブルが起きた。FAAと国土交通省は1月16日に、実に34年ぶりとなる運航停止命令を出した。
日米当局によるこれまでの調査でバッテリー内部のリチウムイオン電池が異常に過熱し、制御不能となる熱暴走が確認された。しかし原因については依然、解明されていない。
FAAはボーイングが提案した電池の改善を施すことを条件に787の運航再開を4月19日に認可した。これを受け国交省も、787を保有するANAとJALの運航再開を認めた。両社は試験飛行などの後、6月に営業を再開する。
問題となったバッテリーの発火原因は特定されていない。それなのに、なぜ、運行再開を急ぐのかという声が上がるのは当然だ。再開に踏み切った理由は単純明解だ。収益の機会を逃さないようにするためである。ボーイングの経営をこれ以上、悪化させてはまずいとの、政治的判断が働いたということだろう。
ボーイング社が4月24日に発表した2013年第1四半期(1~3月)決算は787の引き渡し中断が響いた。売上高は前年同期比3%減の188億9300万ドル(約1兆7900億円=1ドル95円で換算)、営業利益は同2%減の15億2800万ドル(約1450億円)。にもかかわらず純利益は同20%増の11億600万ドル(約1050億円)となった。
民間航空機部門の売上高は107億ドル(約1兆100億円)。1~3月期は777の生産を月産8.3機に、737は同38機に引き上げたことにより、787の引き渡し中断による大幅な減収を回避した。
787の早期の納入再開を前提に13年12月期の通期見通しは据え置いた。売上高は820億ドル(約7兆7900億円)から850億ドル(約8兆700億円)の間、民間航空機部門は510億ドル(約4兆8400億円)から530億ドル(約5兆300億円)。営業利益率は9.5%と予想。引き渡す機数は635から645機。このうち787は60機以上を予定している。FAAは4月19日にボーイングのバッテリーの改修プランを正式に承認していた。
787はバッテリーのトラブルによって1月16日に運航停止となったため、2013年3月末までの納入実績はインド国営航空会社、エア・インディアに引き渡した1機だけとなった。運航中止が長期化すれば年末までに予定していた60機の引き渡しは不可能になる。ボーイング社は大幅な減収、赤字転落、そして株価暴落の恐れがあった。
運航中止期間中もボーイング社は787を月間5機のペースで生産してきた。納入できない787が工場の敷地内の駐機スペースを埋め尽くすという事態になった。
これまでに787は800機以上の受注残を抱えている。1~3月期にはアメリカン航空が42機を発注したが、原因究明の長期化の懸念が強まった3月単月の受注はゼロとなった。
納入再開で巨額の開発費、生産投資を回収するメドがついた。駐機スペースを埋め尽くしていた787をなるべく早く引き渡す。生産を月間5機から7機に引き上げ、年末までには同10機体制とする。
ボーイングのジム・マックナーニ最高経営責任者(CEO)は、新型航空機の開発段階での管理体制を世界規模で強化する方針だ。787の事故を踏まえて、「世界規模で全責任負うリーダーを置く」と発表。787型機の生産は世界8カ国の部材メーカーと国際分業をする体制になっている。分業体制は変えないが、責任者を置き、各国のパートナー企業に分散する開発陣を束ねる。
今後の焦点は787の補償問題に移る。欠航による損失の補填のほか、停止中に待機していたパイロットの人件費や振り替え便の使用料などについて航空会社と個別に交渉する。