トヨタ自動車が発表した2018年1月1日付けの役員人事が波紋を広げている。能力や実績を無視し、完全に豊田章男社長の「お友達」で経営陣を固めるためだ。しかも、豊田氏の意向に反対したり、でしゃばると外されることから、周囲はイエスマンばかりになりつつある。水面下では「大株主でもないのにオーナー企業的振る舞い」と豊田氏を批判する声も出ている。系列部品メーカーからも「自動車業界が大変革を迎えているなかで、トヨタは大丈夫なのか」と懸念する声も出ている。
トヨタが11月28日に発表した役員体制の変更は異例づくめだった。トヨタは通常、1月1日付けで部長以下の人事異動と組織改正を実施して、4月に役員人事を発表している。それが今回、1月1日に役員人事を前倒し。ただ、異例だったのは時期だけではない。その内容も異例だった。
今回の人事でトヨタグループ各社首脳がもっとも驚愕したのが、デンソー副会長である小林耕士氏のトヨタ副社長就任だ。小林氏はトヨタ出身だが、2003年にデンソーに移っており、その副会長といえば「完全に上がりのポスト」(サプライヤー)。しかも年齢も69歳とトヨタが内規で定めている副社長の年齢上限65歳を大きく上回っている。
その小林氏がトヨタの副社長という要職に就くのは、豊田氏との人間関係にほかならない。小林氏は豊田氏がトヨタの一般社員だった頃の上司で、2人の関係は近い。「小林氏が豊田氏のお守り役」というのは名古屋では有名な話だ。
小林氏は経理畑で、トヨタ復帰後はCFO(最高財務責任者)に就任する。このお友達人事で割を食ったのが現在CFOを務める永田理副社長で、小林氏の就任で居場所を失って副社長・CFOを退任することになる。来年6月の定時株主総会までは取締役として残るものの、その先はないと見られる。永田氏は「現在のトヨタ経営陣のなかで唯一、章男さんにはっきりものを申せる人」(トヨタ関係筋)で、それだけに豊田氏にとっては煙たい存在だった。
そもそも永田氏は豊田氏が社長に昇格する前まで、将来の社長候補の1人と見られるほどの実力を持っていた。豊田氏は経理畑出身の小林氏をトヨタに復帰させることで永田氏を排除する、つまり一石二鳥というわけだ。しかも、小林氏が仕事をやりやすいように、現在、永田氏の下で財務を担当している大竹哲也専務役員も退任させるほど配慮する。