新型コロナウイルス(以下、コロナ)が世界に蔓延し約1年。コロナは私たちの生活様式に大きな影響と変化をもたらしました。
未知の疫病としてだけでなく、外出自粛による経済の停滞や打撃による解雇、生活困窮、企業の倒産のニュースも連日報道され、今も続いています。
筆者もご多分にもれず取引先が事業縮小し契約打ち切りになり、情勢の不透明さから買い控えの嵐、新規の案件受注も大幅に落ち込み、辛酸を舐めたひとり。なので昨年のコロナ持続化給付金には大いに助けられました。昨年は筆者のように、給付金支給で首の皮1枚つながった事業者も大変多かったのではないでしょうか。
コロナと共存しつつ生き残るための新たな打ち手を考えていた矢先、税理士の阿久津公一先生(阿久津公一税理士事務所所長。以下、阿久津先生)が「昨年の持続化給付金に代替する「事業再構築補助金」が発表され、公募が開始された」と教えてくださいました。「ただし給付金ではなく補助金なので、違いを踏まえて検討が必要」とのこと。
一体どういうことなのでしょう。給付金すら恐る恐る申請した筆者。一気に心理的ハードルが上がります……。
しかしコロナに対応した新基軸を展開するにしても、差し当たって必要なのは当座の運転資金。まとまった現金なくして事業は回りません。対象なら勇気を出して申請し、ぜひ受け取りたいところ。
そこで具体的にどんな補助金なのか、昨年の給付金と今年の補助金の違いは何か、そして筆者のような個人事業主は対象になるのか、詳しく伺ってみました。
補助対象になるのは最低150万円の事業
【阿久津氏インタビュー】
――まず事業再構築補助金について概要を教えて下さい。
阿久津先生(以下、阿久津) コロナ社会に対応したビジネスに転換しなくては事業がジリ貧になっていく状況ですが、そのためには資金が必要です。その事業再構築にかかる費用を国が一部補助しますよ、という制度です。
既存事業の強みを生かして新分野に挑戦したり、既存事業を縮小や廃止して新規事業を始めたり、非対面型のビジネスモデルに業態転換したい事業者にとっては、大チャンスです。
ちなみにこの制度、もとは昨年の持続化給付金(法人200万円、個人100万円)に代わる新制度(中小企業の場合は補助率2/3、補助金額最大6000万円)と呼ばれ、安倍晋三政権退陣がなければ給付金として支給されていたものが、給付金の不正受給が横行したことにより補助金に形態を変えたといわれています。予算は1兆円1000億円と、これまでに類を見ない規模の補助金です。昨年のものづくり補助金の予算枠は1000億円なので、その11倍ということからも国がいかに力を入れているかわかります。
――私のような事業開始3年そこそこの個人事業主も補助の対象になるのでしょうか。
阿久津 条件的には該当します。申請前の直近6カ月のうち、任意3カ月の合計売上高がコロナ以前の同月3カ月の合計売上高より10%以上減少した事業者は、事業年数や業種に関係なく申請できます。実は業種別に資本金や従業員数の上限がありますが、月見さんは個人事業なので関係ないですね。たとえば建築業なら資本金3億円以下、従業員数が300人以下という条件があります。
しかし補助金がおりるかは正直なところ、補助金を得たい事業の内容次第ですね。
たとえば一般枠(※緊急事態宣言枠など数種類あり)の中小企業は「補助金100万円以上」が対象です。補助は総額の2/3までですから、最低でも事業費150万円以上のプランをつくることが前提となります。1/3は事業者の負担ですし、前払いではないので事業資金の総額を自己資金か金融機関からの繋ぎ融資等で、一旦立替しなければなりません。補助金を給付金の延長と考えると、とんでもない事になります。
また、なんでもかんでも採択されるわけではありません。事業再構築指針の要件に叶った事業計画書を作成し、国から「事業として成功の見込みが高い」と認められた事業のみ補助されます。
事業計画書もものづくり補助金と同レベルのものが必要で、認定経営革新等支援機関と一緒に事業計画を策定する必要があります。補助金3000万円以上の事業については金融機関との連携も必須になります。
補助金の目的は補助金の採択を受けることではなく、成功確率の高い事業を構築することです。その時の思い付きで申請するのではなく、自社の強みを把握した上で多くのアイデアを抽出し、吟味したうえで事業計画を作成し申請する事がなにより重要です。
小規模事業者には向いていない?
――レベルの高い綿密な計画と覚悟がいるんですね。事業規模から考えて私のような小規模事業者の申請は現実的ではないと感じます。
阿久津 補助金を受け取るという意味では該当しないかもしれませんが、月見さんのような事業者にとっても、今回の補助金は千載一遇のチャンスだと思いますよ。
補助対象経費が確実に事業者からサービス提供者に支払われるので、経済への波及拡大効果が大きく、補助対象経費のサービス提供者(建物費、建物改修費、設備費、システム購入費、外注費<加工、設計等>、研修費<教育訓練費等>、技術導入費<知的財産権導入に係る経費>、広告宣伝費・販売促進費<広告作成、媒体掲載、展示会出展等>等)は、この補助金をうまく活用すれば受注の嵐となるのではないでしょうか。大型契約の受注もしやすくなるのではないかと思います。そうやってこの補助金の恩恵を受けるといいと思います。
――最後に我々事業者に伝えておきたいことはありますか。
阿久津 昨年はコロナ禍がどうなっていくか読めなかったので、事業者にとってはひたすら忍耐の年でした。国や地方公共団体も給付金という形で、最低限事業を継続できる程度の措置は講じてくれました。
しかし今年はいよいよコロナと共存していかなければならない状況がほぼ確実視されることから、今年は大型の給付金は期待できません。自らの事業を見直し積極的にコロナで傷んだ事業を再構築していかなければなりません。国からもそのために必要な資金を補助金という形で支援される予定です。今年は事業再構築補助金以外にも既存の補助金の規模拡充や新規の補助金も発表される可能性が極めて高いと思われます。リアルタイムの補助金情報を取り逃さないことが肝になってくると思います。
――ありがとうございました!
今回の事業再構築補助金、私個人のケースでは申請は現実的ではないなと感じましたが、その補助金を得た企業へ働きかければ良いと知れたのは大きな収穫でした。
もちろんアイデアや計画をお持ちの方は、国から高額な補助を受けられるまたとないチャンスですので、ぜひ積極的に情報を取得し、申請を検討してみてはいかがでしょう。
さて気になる申請スケジュールですが、一次公募が先日3月26日(金)から開始され、申請受付が4月15日(予定)、申請締切が4月30日(金)18:00まで(厳守)とかなりタイトです! しかし四次公募まであるそうなので焦らずとも大丈夫とのこと。
また阿久津先生の事務所では補助金関連の情報を速報でお届けするメルマガを配信されているそうなので、個人事業主や経営者は登録してみてはいかがでしょう。
(文・構成=月見あいす/ライター・イラストレーター、協力=阿久津公一/税理士)
●阿久津公一(あくつ・こういち)
1959年、東京都江東区生まれ。大学卒業後の9年間に7回の転職を経て、2001年5月に阿久津公一税理士事務所設立。「親身、親切、丁寧な対応」をモットーに、地域(江東区)に密着し、地域社会に貢献する税理士事務所の運営を目指す。コロナ禍の事業者を活性化するため、政府の補助金や助成金に関する情報を公式サイトやメルマガなどで発信している。
※事務所URL http://www.akutsuzeimu.jp/