引退する中小企業経営者が知っておきたい「廃業のデメリット」と「M&Aのメリット」
資産売却で得られるお金は少なく、残った資産も税金によって単純計算でも約7分の1になるので、ほぼ資産を残せないというのが実態です。したがって、「廃業」はもっとも非合理的で不利益な選択だといえます。
次に経営者の方々が考えるのは、家族や親族、従業員など「身内への事業承継」だと思います。しかし、この選択は、後継者の方に大きな負担をかけるというデメリットがあります。
事業とともに負債や連帯保証の引き継ぎが必要ですし、マーケットが縮小している業界では、後継者の方には先代の経営者よりも優秀な経営能力が求められるので、リスクの高い選択ともいえます。子どもがいないケースもあれば、そうした事情を鑑みて子どもがいても承継を拒むケースもあります。また、家族や従業員に承継するにしても、後継者候補の方が経営者と同年代という状況であれば、承継するメリットも少ないと判断される経営者もいらっしゃるでしょう。
次に「株式上場」は、実現できれば大きなメリットですが、極めて難易度が高い選択です。高度な経営能力が求められるのはもちろん、上場できる企業は1年に約100社程度とわずかですし、日本企業全体の0.001%を目指すという目標は現実的に考えて難しいです。
その点、「M&A」は時価純資産という考え方でいくと、「貸借対照表(B/S)上の純資産+営業権の評価」で売却できます。さらに取引先や従業員の雇用を守ることができ、技術やサービスも残していける。私は、これがもっとも合理的かつ現実的な選択肢だと考えています。
M&Aによって企業が存続することには、大きな社会的意義もあります。企業数が維持されることによる、日本のGDP(国内総生産)の維持。雇用の維持。技術やサービスの継承。こういった要素が保たれるのは、M&A事業を展開している企業が担う、大きな社会的役割のひとつだと考えています。
――比較すると、確かにM&Aがもっとも現実的な方法ですね。しかし、後継者不在で中小企業が廃業するケースは多いようですが、危機に瀕した中小企業がM&Aに向かわない理由はどこにあるのでしょうか?
畑野 圧倒的な要因は「知らない」ということですね。会社を残すことや考えることをあきらめて「もう廃業でいい」と投げやりになってしまう方もいらっしゃいますが、一番は「知らない」ことだと思います。
正確に言えば、「M&Aのメリットを知らない」というよりも「廃業のデメリットを知らない」のです。先ほどお伝えしたような非合理的なキャッシュ化や大きな負担となる税金についてご存じなく、「純資産をすべて手元に残せる」と思っていらっしゃる方が多いですね。ただ、M&Aという選択も世の中の動向とタイミング次第では得られるメリットが大きく変わります。