同じATMでも、通帳の記帳も行え、小銭にまで対応している銀行所有のATMと、札にしか対応していないコンビニATMでは、ATMそのものの値段も違い、銀行所有のATMのほうがはるかに高額だ。こうしたさまざまなコスト要因が、銀行のATM利用では手数料がかかる半面、インターネットバンクでは無料となっている一因でもある。
インターネットバンキングを推進する一方で、既存口座からは口座維持手数料を徴収したいというのが銀行の本音だ。銀行口座は給与が振り込まれ、そこから公共料金や新聞の購読料まで自動的に引き落とされ、その上、当座貸越機能により融資まで受けられる。これだけ多機能でありながら、預金に金利が付くことはあっても、提供しているサービス(機能)の手数料を徴収することはできない。
それでも、銀行側には「もし口座維持手数料を導入するとなれば、銀行儲け過ぎ批判が噴出し、口座解約が相次ぐかもしれない」(メガバンク関係者)との恐怖心が付きまとっている。日銀が背中を押していること、口座維持手数料の導入を宣言した上で検討できることは、千載一遇のチャンスでもあるのだ。
公取委という壁
だが、そこには大きな問題が横たわっている。公正取引委員会(公取委)だ。銀行同士が話し合って、手数料を横並びすることは独占禁止法に抵触する可能性がある。手数料というのは、あくまで個別に自由に決めるものであって、話し合いなどを行い横並びすれば、“談合”と捉えかねない。
事実、ATMの相互利用では、銀行界と公取委が手数料問題で大揉めに揉めた。銀行界はATMの運営にはコストがかかり、さらに個別毎に手数料が違えば預金者が戸惑うなどの理由を盾に、横並びの手数料で公取委を押し切った。しかし、今回の口座維持手数料は他行との提携があるわけではなく、あくまで個別の問題。横並びする理由はない。それでも、「他行の手数料水準を見ながら決めざるを得ない」(メガバンク関係者)となれば、お互いが牽制しあって、導入はなかなか進まない可能性もある。
日銀からもたらされた千載一遇のチャンスを生かし、公取委の監視を潜り抜け、果たして銀行は念願の「口座維持手数料」を導入することができるのか。紆余曲折は、まだまだ続きそうだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)