ビジネスジャーナル > 企業ニュース > クレーンゲーム詐欺急増は貧困の証明  > 2ページ目
NEW
「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

クレーンゲーム詐欺の急増は、世帯の深刻な貧困化&賃金低下の証しである

文=加谷珪一/経済評論家

本来なら犯罪に手を染めるメリットは少ないはずだが……

 
 今回の事件は、数万円の家庭用ゲーム機などを景品にしたり、店員がしつこくゲームの継続を勧めたりするなど、完全に規制範囲を逸脱している。通常なら風営法違反が適用されるところだろうが、詐欺罪で逮捕されていることからもその悪質性がわかる。

 ゲームセンターのようなビジネスは、射幸心を煽る部分とそうでない部分の微妙なバランスで成り立ってきた。クレーンゲームに参加する客は、「景品は取れないだろう」と半分は思っているが、ときどき景品を獲得できる人もいる。「簡単には取れないが詐欺ではない」という一種のコンセンサスが客と店舗の間で確立してるからこそ成り立つビジネスである。実際、クレーンゲームというのは、景品を取れなくても、客はそれなりに満足して帰っていくものだった。

 店舗の側も、本来であれば詐欺的な行為を働くメリットは少ないはずである。この手のゲームセンターには常に一定の顧客がやってくる。風営法の適用を受ける業種であれば、警察から指導を受けない範囲で、バランス良く運営するのがもっとも合理的だ。

 だが今回の事業者はそうではなく、一気に犯罪に手を染めている。今回はたまたま摘発されたが、高額商品を提示したり、景品が取れない設定にするなどの行為に手を染める店舗はこのところかなり増えているという。摘発されるリスクを冒してまでも、こうした運営を行うゲームセンタ-が増えてきたことには、マクロ経済的な事情が関係している。

 それは労働者の賃金低下と、それに伴う深刻な消費低迷である。

 過去10年の間に、日本の労働者の賃金は5.2%下落したが、同じ期間で消費者物価指数は2.8%上昇した。つまり年収が減っているのに、物価は上がっているという状況であり、消費者の生活は確実に苦しくなっている。

 こうした状況では、消費者はなかなか財布の紐を緩めない。これによって国内の消費は長期にわたって低迷が続き、事業者の経営も苦しくなっている。一部の事業者は犯罪のリスクを冒しても詐欺的なビジネスに手を染めることになる。

 賃金が減ると消費者の意識も変化する。経済的に余裕があれば、その場を楽しむことにもお金を投じることができるが、余裕がなくなると「トクすること」や「景品」「ポイント」に惹かれやすくなり、事業者による詐欺に引っかかりやすくなる。

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

クレーンゲーム詐欺の急増は、世帯の深刻な貧困化&賃金低下の証しであるのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!