宝くじ高額当せん者だけに配布される冊子に書かれた「驚愕の注意点」…不幸なトラブルも多数
毎年11月下旬から12月下旬にかけて発売される「年末ジャンボ宝くじ」。2016年のその1等は7億円で25本(第704回全国)。前後賞はそれぞれ1億5000万円で50本もある。
前後賞は同じ組で末尾の数字が1つ違うだけだから、連番で購入すると、前後賞も合わせてトータル10億円が期待できる、まさにビッグチャンスとなっている。大みそかに東京・赤坂ACTシアターで抽選が行われたが、当たった人は素晴らしい初夢が見られただろう。
10億円が当たったら、年収2,500万円の生活が40年続く。月額650万円の家賃がかかるというトランプタワーに12年間住み続けることもできるし、豪華なクイーン・エリザベス号での世界一周も夫婦で60回以上(一人780万円×2)周遊できる。
これまでの価値観や金銭感覚が一変しそうだが、今回のコラムでは、もしも宝くじに当たった場合にどうする? どうなる? をまとめてみた。
必要でない限り、まとまった当せん金は口座振り込みに
まず、自分が購入した宝くじが当せんしていたとなると、一刻も早く受け取りに行きたいのがヒトの性(さが)というものだろう。
1万円以下なら全国の宝くじ売り場や受託銀行であるみずほ銀行の窓口(詳細は宝くじ券の裏面に記載)で換金できる。1万円超の場合は銀行等になるが、「5万円マーク」が表示されている宝くじ売り場なら5万円まで換金可能だ。
50万円の当せん金を換金する場合、運転免許証や健康保険証など本人確認ができるものを持参するのをお忘れなく。100万円超なら、それに印鑑も必要になる。当日換金できる金額は100万円まで。それ以上は後日現金受け渡し、もしくは振込になる(みずほ銀行本店は、一定額以上なら当日全額受け取れる場合もある)。
10億円当たったら、目の前に札束がどれくらい積み重なるのか見てみたい気持ちはあるものの、防犯上の観点などから、必要に迫られない限り、銀行などでは振込をお勧めされるはずだ。
高額当せん者だけがもらえる冊子がある!
さらに1,000万円以上が当たった高額当せん者は、当せん金以外にある冊子を渡される。タイトルを『【その日】から読む本 突然の幸福に戸惑わないために』(以下、『その日から読む本』)という。
高額当せん者しかもらえないこともあり、その希少性から幻の本とも呼ばれているらしい。先日見かけたネットオークションでは3~4万円で落札されていてびっくりした。ちなみにこの冊子は無料で配布される。高額な宝くじが当たった上に、無料でもらったものを売買してさらに儲けようとは、人間の欲というのはキリがない。
『その日から読む本』は、「今すぐやっておきたいこと」「落ち着いてから考えること」「当面の使いみちが決まったら考えること」の3部構成となっており、時系列的に具体的なアドバイスが書かれている。
高額な当せん金を手にして、詐欺や財産トラブルなど不幸な目にあうことのないよう、ジャンボ宝くじの当せん金が大幅に引き上げられたのに伴い、01年から全国の都道府県と指定都市で配布が開始された。
作成には、弁護士や臨床心理士のほか、筆者と同じファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家の意見が参考にされている。
実は、ちょうど作成に携わったFPが知り合いだったこともあって、発行された当初に冊子を読ませてもらったことがある。
「だれに話をするか」「だれに分与するか」「当せんして何が変わるか」など、大金を手にした人が知っておきたい、あるいは考えるべきさまざまな事柄が、詳細かつ丁寧に解説されたハンドブックだ。
全体の感想として「慌てるな」「興奮するな」「神経質になるな」といったトーンに終始し、大金を手にすることになったけれども、とにかく落ち着けということなのだな、と笑ってしまった覚えがある。
当せん金の使い道や資産運用、遺言の書き方なども網羅されているので、高額当せん者はこれをしっかり読んで実践できれば大丈夫なのではないだろうか。
なぜ宝くじの当せん金は非課税なのか?
宝くじは1枚300円。当せん金額が高額でなくとも、100万円でも当たればうれしいに違いない。前述の冊子を手にすることがない人も税金について最低限知っておこう。
よく知られていると思うが、宝くじの当せん金に「所得税」「住民税」はかからない。10億円だったら、全額が丸ごとそっくり受け取れる。
所得税の最高税率は、15年分以降、課税所得4,000万円超は45%に引き上げられており、一般的な所得なら半分近くが税金に消える。
宝くじの場合、「当せん金付証票の当せん金品については、所得税を課さない」(当せん金付証票法13条)と法律上も明記されているのだ。課税する立場からすると、宝くじ全体で、払い戻しは販売額の半分以下であり、売り上げのほうに課税した方が税収は高くなる。すでに、売り上げから税金等を先に引いているのに、その中から出てくる当せん金に課税すると二重課税となってしまうため、受け取った当せん金には税金がかからない仕組みとなっている。
気前よく当せん金をプレゼントすると贈与税がかかることも
ただし、税金の心配をまったくしなくても良いわけではない。当せん金自体には税金はかからないが、それを身内や知人・友人などに分けると「贈与税」がかかる可能性があるからだ。贈与税は、暦年(その年の1月1日から12月31日まで)の間に贈与により取得した「(課税価格-基礎控除)×税率―控除額」で計算される。
15年以降、贈与税の税率は、祖父母や父母などの直系尊属から20歳以上の子や孫などへ贈与した場合の「特例贈与財産」に対する特例税率と、それ以外の贈与(兄弟間、夫婦間など)の場合の「一般贈与財産」に対する一般税率に分けて計算されることになっている。
たとえば、父(50歳)が当せん金から1億円を子(25歳)に贈与した場合、贈与税額は4,799.5万円で、実際に渡せるのは5,200万円ほど。同じ子どもでも20歳未満の子に贈与した場合、贈与税額は5,039.5万円にアップし、手取りがさらに減る。
家族などへ宝くじの当せん金を贈与するときは、住宅取得等資金や教育資金、結婚・子育て資金など、所定の要件を満たす贈与に関してはさまざまな税制上の特例が設けられているので、賢く活用しよう。
当せん証明書などは必ずもらっておくこと
さらに贈与について注意すべきは、共同購入した宝くじが当せんしたケースである。
宝くじが当選した場合、当せん金は共同購入者全員で受け取ったという証明を必ずもらっておこう。代表して受け取った人が後で山分けしたら、贈与とみなされて、贈与税の対象となる可能性があるからだ。
証明書が必要なのは、これだけではない。たとえば、宝くじの当せん金でマイホームを購入するという人は多いだろう。すると、購入後に税務署から「お尋ね」が来ることがある。要するに、マイホームを購入するにあたって、住宅購入資金をどのようにまかなったか、の確認が来るわけである。
この場合、宝くじ高額当せん証明書を発行してもらって、それを示せば問題ない。これは高額当選で得たお金の出所を明確に証明してくれるもので、当せん金を受け取った銀行で発行してくれる。
いずれにせよ、高額当せん者は、今後の贈与や相続なども含め、お金の流れをチェックされ続ける可能性があることは念頭に置いておきたい。
買わなければ当たらない?
当然のことながら宝くじは買わなければ当たらない。しかも確率として、継続的に購入しなければ、当せんの確率は下がる。
個人的に、競馬、競輪、競艇、海外カジノなどなど、一通り経験はあるものの、賭け事が肌に合わないのか、大きく外れもしなければ当たりもしない。まったく娯楽としては、おもしろくない賭け方しかできないので、宝くじも積極的に買おうとは思わない。
しかし、そんな筆者のようなギャンブルに興味がない者でも夢を見ることはできる。地方銀行など宝くじと定期預金がセットになった「宝くじ付き定期預金」を利用する方法だ。
銀行によって預け入れた金額ともらえる宝くじの枚数や種類は異なるが、スルガ銀行の場合、300万円1口の3年定期で年末ジャンボやドリームジャンボなどが10枚受け取れる。同行では、日本一といわれる「西銀座チャンスセンター」ですべての宝くじを購入しており、宝くじの種類もバラ、連番など4つのコースから選べるというのも楽しい。ほかにも、わざわざ神社で当せん祈願を行うという銀行や、すでに10人以上もの億万長者が出ている銀行もあるという。
マイナス金利の影響で、魅力的な金利の商品が不在の状態が続く昨今だが、大きな夢を見ることができる金融商品もあるということだ。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)