以上の大きな問題(1)~(3)の中で、(2)と(3)については、会計検査院も問題があることを会計検査院の「平成24年度決算検査報告」(註1)の中で、後述するように認めた。そこで、まず会計検査院が、国の省庁(この場合環境省)に課題を課した点について、どのように対応対処したのかを質問主意書では、問うている。
被災地の復興と救援の名目で、国民は25年間にわたって所得税を、事業者は事業税を増税させられる一方、それによって確保された復興資金を国の役人たちに勝手に使われていたとしたら、重大な問題といえるだろう。
筆者はこの復興資金、とりわけ災害廃棄物処理対策費の使い道について追跡調査してきた。今回は、参議院議員の又市征治・当時社民党党首が提出した質問主意書とその答弁に対して報告する(註2)。
会計検査院が指摘した仰天内容
会計検査院は、「平成二十四年度決算検査報告」―「広域処理の状況及び広域処理に係る循環型社会形成推進交付金の交付状況」で、前述の環境省大臣官房リサイクル対策部が全国の市町村に対して交付した交付金について、次のように問題点を指摘した。
「事業主体において広域処理に係る検討が十分に行われていなかったり、同交付金の交付対象施設において災害廃棄物を受け入れていなかったり、復旧・復興予算からの交付を自ら要望していない事業主体が含まれていたりなどしていて、広域処理の推進のために十分な効果を発揮したのかについては、客観的に確認できない状況となっていた」
「環境省においては、同交付金の交付が広域処理の推進のために十分な効果を発揮したのか交付方針の内容も含めて検証する(略)必要があると認められる」(註3)
ここに書かれている事実は、仰天する内容である。交付金を受けた事業主体が、「広域処理に係る検討が十分に行われていなかった」と書かれている。つまり被災三県の内、宮城県や岩手県からがれきを広域処理で受け入れるという理由で補助金を受け取りながら、その検討を十分に行っていなかったというのである。
また、「同交付金の交付対象施設において災害廃棄物を受け入れていなかった」とも書かれている。これに当たるのが、堺市や高岡地区広域圏事務組合などである。また、「復旧・復興予算からの交付を自ら要望していない事業主体が含まれていた」などとも書かれている。
これに当たるのは、堺市である。堺市の環境部では、がれきを受け入れる予定はなかったため、復興資金からの補助金の受け取りは断った。ところが環境省は、堺市が同時期に建設した焼却炉建設にかかった費用全額をこの交付金で出すというのである。通常の補助金(循環型社会形成推進交付金<通常枠>)では半額、今回のケースでは約40億円しか出されないが、復興資金(同<復興・復旧枠>)から拠出される場合は、費用の全額が補助される。自治体にとって確かに有利であるが、堺市はあえて理由のない補助金は受け取れないと断ったのである。ところが環境省は、強引に復興資金からの補助金を堺市に押し付けていた。
通常、全国の市町村が行う焼却炉建設などの廃棄物処理施設建設は、自治体が自らの予算で行い、国は通常ではその3分の1、発電利用したものでは最大2分の1を補助金で支給する。それは環境省の通常予算で行われる。
では、なぜ環境省が本来は被災地の復興や被災者の救援のために予算化された復興資金を、全国自治体の廃棄物処理施設への補助金として拠出したのだろうか。環境省は過去の答弁で、がれきの広域処理に協力する自治体が少なかったため、協力を促すための交付金の支給であると通知書に書かれた趣旨を紹介しながら次のように答えている。
「交付方針を示した平成二十四年三月の時点では一都三県において実施されていた広域処理の受入れが、平成二十六年三月までに一都一府十六県にまで拡大したことから、交付方針は被災地の復旧・復興の前提である災害廃棄物の処理や広域処理の拡大に関し一定程度の寄与があったものと考えており、交付方針の目的は達成したと考えている」
交付金の配布を行ったうえで、どのような効果があったのかという疑問に対して、協力して手を挙げる自治体が増えたから「目的は達した」と言っている。がれきを受け入れなくとも補助金を支給すると言われれば、それに飛びつく自治体が出るのは当たり前であり、それだけで10自治体になっている。結局環境省はこの交付通知で、がれきの受け入れ数量を増やすことには関心がなく、手を挙げた自治体に廃棄物処理施設の建設や整備を理由とする補助金を配ることが目的だったことがわかる。
官僚は常に自分たちの省庁が進めることのできる予算の枠を拡大したいという意思を持つ。予算規模が大きくなれば、その事業を担うゼネコンなどの巨大事業者との癒着関係も生まれる。しかし、それが被災地の復興と救済のための予算からくすね流用するということは、法律上も人道的にも許されない。環境省が省庁ぐるみで違反行為を行っていたとしたら問題であり、会計検査院による「環境省においては、同交付金の交付が広域処理の推進のために十分な効果を発揮したのか交付方針の内容も含めて検証する(中略)必要があると認められる」との指摘の持つ意味は大きい。補助金適正化法で事実解明が待たれるところである。
環境省の回答
環境省の発表によると、全国10カ所でがれきを1トンも受け入れていないのに補助金を受けている(表1)。
表1:がれきを1トンも受け入れていないのに補助金をもらった自治体と、受け入れ金額 (1)投入補助金名目 (2)交付金と交付税の合算額
北海道中・北空知廃棄物処理広域連合(1)焼却設備 (2)28億8856万
秋田県鹿角広域行政組合 (1)リサイクル施設 (2)1億2241万円
秋田県潟上市 (1)既存施設の延命化(2)2億4860万円
群馬県佐波郡玉村町 (1)既存施設の延命化(2)11億3176万円
群馬県甘楽西部環境衛生施設組合 (1)既存施設の延命化(2)3億7568万円
埼玉県川口市 36億3968万円
東京都ふじみ衛生組合 (1)焼却施設整備 (2)51億3053万円
東京都西秋川衛生組合 (1)焼却施設整備 (2)18億4494万円
京都府綾部市 (1)最終処分場整備 (2)2億9037万円
大阪府堺市 (1)焼却施設整備 (2)85億9390万円
小計 242億6643万円
具体的な名前が挙がっているのだから、その経過を知ることは可能である。そもそもこうした行為を環境省たちが実施する根拠となったのは、前述のとおりリサイクル対策部がつくった通知文書(写真2)である。
この文書では、がれきの広域処理を促進させるという名目を掲げながら、がれきの受け入れを行わなくとも補助金は支給するといった但し書きがなされている。また、補助金を使って建設する焼却炉の完成時期が、がれきの広域処理の期限後で受け入れ不可能な場合でも、受け入れたことにできるという文言が並べられている。これまでも質問主意書で環境省は指摘されてきたが、今回も改めて問うたところ「復興資金の無駄使いには当たらない」という回答だった。
また表2に記載されている自治体では、がれきの広域処理を受け入れているが、問題はがれきの広域処理に当たって約1トン当たり5万円の処理費を出し、遠方への運送費(北九州市の場合は、処理費用と同額以上)も使っているということである。さらに、受け入れた自治体が、本来自分の財政で処理しなければならない各種の廃棄物処理施設や処分場づくりに何億円ものお金を補助支給している。当時、災害廃棄物の処理に当たって広域処理に反対する意見は、次のように整理される。
・福島県の災害廃棄物は、広域処理から外したといっても宮城県、岩手県のがれきも地域によっては放射能汚染されているものもあり、汚染状況がわからないものを拡散することは、世界の放射性汚染物の取り扱い原則(拡散しない、焼却しない)に反する。
・ごみの処理は排出源でできるだけ分別処理し、安全性も確認しながら進めるのが原則であり、仙台市が行ったような分別・資源化処理を基本とすべきだった。
・安全性が確認されたがれきならば、できるだけ地元で行うべきで、災害後の雇用促進事業にもなった。
・遠くに運べば、その分運送費がかかり復興資金の使い方として合理的ではない。
表2:がれきを一部受け入れて補助金をもらった自治体
(1)投入補助金名目 (2)交付金と交付税の合算額 (3)受け入れたがれきのトン数
秋田県秋田市
(1)エネルギー回収推進施設
(2)5億20万2千円
(3)約5931トン
山形県酒田地区広域行政組合
(1)マテリアルリサイクル推進施設
(2)1億4693万3千円
(3)約276トン
富山県高岡地区広域圏事務組合
(1)高効率ごみ発電施設
(2)62億6674万8千円
(3)約519トン
静岡県静岡市
(1)マテリアルリサイクル推進施設
(2)1億1269万円
(3)約1102トン
福岡県北九州市
(1)廃棄物処理施設の基幹的設備改良事業
(2)18億923万1千円
(3)約22696トン
この表2については、がれきを一部受け入れた自治体として会計検査院からも報告されていたが、たとえば富山県高岡地区広域圏事務組合の焼却施設で519トンを受け入れたことになっている。コストについて考えてみると、わずか519トンのために62億円の復興資金を使ったというのだから、1トン当たり約1200万円もの処理費を使ったことになる。通常の処理費5万円の240倍ものお金を掛けた処理費となっている。
それだけでも、いかに税金の無駄使いを行っていたかがわかるが、もう一つ重大な問題があった。同組合の焼却施設が建設されて完了したのが14年9月であり、その時にはがれきの広域処理は終了していたので、まだ完成もしていない同焼却炉での受け入れ処理は不可能だったのである。会計検査院の「平成24年度決算検査報告」(写真3)でも、完成していない焼却炉で1年以上前にがれきを受け入れて処理したという科学的にもできない不可能なことが今もそのまま記載されている
そこで今回の質問主意書では、環境省に対して「富山県高岡地区広域圏事務組合が、がれきの受け入れを行っていないことを会計検査院に報告すべきではないか」という質問が出された。それに対しての環境省の答えは、「御指摘の『会計検査院に報告』の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である」という答えであった。
400万トンの広域処理がれきが6分の1に
ほかにも重大な問題として、(1)が挙げられる。処理しなければならないがれきの量を過大に推測し、予算立てしながら、実際の処理量が大幅に減少したにもかかわらず、予定どおりに予算消化していた問題である。例えば、国が当初、約400万トン必要だと言っていたがれきの広域処理が、時間の経過とともに少なくなり、結局、最終的には約67万トンになったということが今回の答弁でわかった。
宮城県発の広域処理量は、当初の344万トンから約10分の1の36万トンになっている。岩手県は当初の57万トンから約2分の1の31万トンになり、合計しても67万トン。当初の予定量の6分の1となっている。
表3 がれきの広域処理量の変化(万トン)
日時 宮城県 岩手県 合計
2011年9月 344 57 401
2012年8月 127 42 169
2013年1月 39 30 69
同 5月 36 31 67
広域処理によるがれきの総量が400万トンだと、その処理予算は1トン当たり10万円前後の予算で組んでいるため、3000~4000億円ほどの予算額になる。それが6分の1に減れば、がれきの広域処理に使われたのは1000億円に満たない金額になり、2000~3000億円の大幅な余剰金が発生したはずである。もちろんそれらは国庫に戻し、被災地の復興資金として使う必要がある。
東日本大震災による東京電力福島原発事故による放射能汚染の影響から子どもや家族を守るために、福島県から避難した家族への援助が、資金を理由に打ち切られるケースが出ている。子どもの甲状腺がんの発生数(193人)を見ても、今後も福島で生活する子どもたちの保養や継続的な診断治療が必要になる。「資金がない」という一方で、国が復興予算の流用を行うことは許されない。
最後に被災3県の内、原発事故被害も受けた福島市在住の佐々木慶子さんのコメントを下記に掲載する。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
【佐々木慶子さんのコメント】
国家予算の無駄にメスを入れ、原発事故被災救済と原発全基廃炉決定を福島の一市民として訴える
以下、福島に在住する一市民として訴えます。
今回の報告を見ても、3.11福島原発事故被災県民のひとりとして、国の予算すなわち私たちの税金の使われ方には、「怒り心頭」である。今回の報告は、災害廃棄物の処理、特に広域処理に関する報告であるが、復興予算22兆円は国民の20年先までの所得税や事業税から絞り出したものである。被災地の復興のための予算が、全国の自治体の廃棄物処理施設に流用されているなど言語同断である。ここからは国も、自治体も貴重な復興予算を大事に使っているという緊張感は伝わってこない。
復興予算は、災害被災者が支援を実感できるために重点的に使われるはずのものでなかったか。特に福島県の場合、原発被災者への支援は今も欠かせない。ところが、福島県内での復興資金の使われ方を目の当たりで見ていると、今回の流用問題に限らず、疑問を感じる復興予算の使われ方が目に留まる。
効果が疑われている除染作業やそこから生み出される膨大な「核のゴミ」の減容対策としてゴミ焼却炉の補修・新設に何千億もかけ、しかもそれらは、4~5年で解体処分されている。事業者や箱モノ優先のゼネコンビジネス全盛とも言えよう。これこそお金を湯水のごとくドブに捨てるようなものと言ったら言い過ぎだろうか。箱モノ復興は確かに目覚ましく進んでいる。しかしそれらを活用し、QOL(生活の質)を向上することにどれだけ役立つかは疑問である。この悪循環を断ち切らないと国家破綻にもなりかねないと危惧しているのは私だけではないはずだ。
一方、帰還困難区域では土地があっても帰れない、家があっても住めない、現実が突き付けられている。しかも放射能汚染は帰還困難区域だけに限定されるわけではない。帰還困難区域外でも低線量長期被ばくから子どもを守りたい母親たちを中心に自主避難を余儀なくされ二重、三重生活を送っている家族も多い。このような自主避難者・母子避難者へ支給されていた「住宅支援手当」(年間80億円と言われている)は救いの最後の砦であったが、多くの継続支給要請がなされたにもかかわらず、国と連携して、福島県は非情にも昨年3月で打ち切ってしまった。
効果が疑問視される巨額の復興資金を投入する反面で、被災住民のささやかな願いに背を向けている。困窮している国民・県民に温かい血の通った行政を届けようとする姿勢は見られない。「住宅支援手当」の復活は急務である。
福島県内の子どもの甲状線ガン人数は、普通100万人に2人程度なのに、2017年末現在、正式発表でも193人、手術を受けた子どもの数は160人に達している。明らかに異常な数値である。この数はさらに増えると予想されている。規制解除して支援・補助を打ち切られれば、経済的に立ち行かず、安全が保証されないまま、不本意ながら故郷に帰らざるを得ない選択を迫られた家族が多くいるのである。
放射能汚染対策は百年、千年、万年単位でとらえなければならず、その費用も10兆、20兆、100兆……と天井知らずである。国土も経済も国家も人間も破壊するであろう。原発事故こそ「国難」であり、「核と人類は共存できない」事実を突き付けている。このことを「フクシマ」から学ぶべきではないだろうか。
復興資金の流用問題を通して、被災者に寄り添う復興資金の使い方の見直しを求めたい。今も非常事態宣言は、継続している。今も原発事故は、終息していない。被害が続いている。だからこそ原発「再稼働」はありえず、国内の「全基廃炉」こそ世界平和につながる日本の生きる道であることを全身全霊で訴えたい。
※注釈
註1:第4章第3節
註2:「循環型社会形成推進交付金復旧・復興枠の交付方針について」(平成二十四年三月十五日環廃対発第一二〇三一五〇〇一号)(以下本件交付方針))
註3:「平成二十四年度決算検査報告」第四章第三節「第7 東日本大震災により発生した災害廃棄物等の処理について」の「4 本院の所見」における「(3)広域処理の状況及び広域処理に係る循環型社会形成推進交付金の交付状況」