順調だった某企業がたった3年間で売上半減→資金ショート危機に陥った理由
6月25日に事業再生ADRを申請して経営再建を目指す田淵電機。その復活への道を探る。
7月4日に事業再生ADRの第1回債権者集会が開かれ、田淵電機は金融機関から「借入金の一時棚上げ」について、正式に了承を得た。別の言い方をすれば、すでに事業再生ADRを申請した時点で借入金の棚上げ要請をしていたわけだが、これが正式に認められたかたちとなった。
事業再生ADRとは、民事再生法や会社更生法などの法的申請とは異なり、裁判所を通じて負債処理を行う再建方法ではなく、当事者間の話し合いで債務処理を行う手続きである。このため裁判所ではなく、法務大臣および経済産業省が認定した第三者機関である事業再生実務家協会が管理、当事者間(田淵電機と金融機関)で話し合いを行うことになる。取引先との一般債務などは通常通り履行され、業務は継続する。破産などの経営破綻とは大きく異なるが、経営不振が深刻化している事態であることは否定できない。
金融機関への借入金の棚上げだけなら個別交渉という選択肢もあったはずだが(このほうが公にならないため会社の信用に傷がつかない)、田淵電機の場合は、国内子会社の田淵電子工業(栃木県大田原市)、テクノ電気工業(神奈川県秦野市)の3社合わせて11行の金融機関と取引関係があり、11行と個別に折衝するよりまとめて事業再生ADRで行ったほうがいいという判断となった。
田淵電機の連結決算上では、18年3月期末で短期借入金は80億9400万円、長期借入金は17億8800万円となっている。ただ、これは海外を含めた連結決算上の借入金で、会社側では今回のADR対象となる国内3社の金融借入金は総額83億5000万円とコメントしている。
経営悪化の要因を整理する
そもそも、なぜ田淵電機の経営はそこまで悪化したか。15年3月期に532億円の売上があった同社は、そこから18年3月期まで3年連続の減収で、ついに18年3月期の売上高は264億円にまで低迷している。3年間で半減していることになる。17年3月期から利益も赤字で、18年3月期は88億円の最終赤字。そしてそれより深刻なのは、18年3月末時点で実に自己資本比率が5.6%にまで低下しているという状況である。2年前の16年3月末には自己資本比率は44.4%あったのだが、急降下となった。
業績悪化はパワーコンディショナ(電力調整装置)事業の失敗に尽きる。パワーコンディショナは、直流電力を家庭でも使えるように交流変換する電力調整装置。太陽電池市場の拡大から一時期は田淵電機の業績拡大を支え、需要増に対応して田淵電機はタイやベトナムでの増産投資を行ってきた。それが太陽電池市場の反転から一気に需要が失速、投資負担も逆に重荷となってしまった。
さらに前期の18年3月期には、国内太陽光発電市場での改正FIT法における認証手続きの想定外の遅れやパワーコンディショナ販売価格の下落も重なり、経営悪化に拍車がかかり、ついに自力での経営立て直しは断念する事態となったのである。
今後の経営立て直しの可能性を探る
事業再生ADRについて金融負担は棚上げが認められることになるだろう。まず、これは田淵電機経営再建の大前提になる。しかし赤字経営が続いている限り、資金はいずれ再びショートする。V字回復が果たせれば問題ないが、それでも当面の運転資金は必要になる。
当面の運転資金として、田淵電機は主要取引金融機関を対象に新たな資金調達(DIPファイナンス)を行うことになるだろう。この新たな借り入れについては、既存の借入金とは別に優先弁済権を付与することになる。それがないと金融機関も応じにくいだろう。ここまでは経営再建の前提条件となる。当然クリアしたうえで、この後どうなるか? ということである。
パワコンの急回復を望むというのは少し乱暴だろう。経営再建への道として考えうるのは、今のところ2つである。
ひとつは家庭用ゲーム機器向けのアミューズメント用電源機器(アダプタ)。これはすでに新規受注として立ち上がっており、会社側でも「順調に立ち上がって拡大している」と説明している。前期まではパワコンの不振のなかで「焼け石に水」だったが、この拡大が続けば、回復の原動力となる。
もうひとつは筆頭株主であるTDKの出方である。TDKは今のところ沈黙を守っているが、なんといっても田淵電機の発行済み株式の2割弱を握る筆頭株主である。製品の共同開発、あるいはもう少し踏み込んだ経営支援的な製品投入などもあるかもしれない。
いずれにしても、新製品の動きについても少しずつ出てきている。それは前述金融機関からの支援を得るためにも必要な条件となりそう。しかし実際の効果がどこまで出るかはまだまだ不透明である。
(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)