荘内銀行(山形県鶴岡市)と北都銀行(秋田市)を傘下に持つフィデアホールディングス(HD、仙台市)と東北銀行(岩手県盛岡市)が、2022年10月に経営統合することで合意した。東北では5月、青森銀行(青森市)とみちのく銀行(同)が共同持ち株会社設立に向けて協議を始めたばかり。生き残りをかけた地銀再編の動きが活発になっている。
「われわれは2番手グループ。1番手グループと違って、奮起しないとビジネスモデルを築けない」。フィデアHDの田尾祐一社長は仙台市で開いた記者会見で、置かれている立場に危機感を示した。
統合する3行が本店を置く山形、秋田、岩手の各県には、トップシェアを持つ山形銀行、秋田銀行、岩手銀行が存在する。地方経済は人口減少で資金需要が落ち込み、新型コロナウイルス禍が追い討ちをかけた。特に、「2番手」以下の地銀、第2地銀は経営基盤の強化が急務となっていた。
フィデアHDは荘内銀行と北都銀行が09年10月に経営統合して設立された共同持ち株会社であり、仙台市に本社を置く。21年3月末時点で両行合わせて約100の店舗がある。グループ全体の総資産は3兆2214億円、従業員は1662人。21年3月期の連結純利益は33億円だった。
東北銀行は岩手県盛岡市に本店を置く1950年設立の下位の地銀。2021年3月末時点で49の店舗があり、宮城県や青森、秋田県などにも展開。総資産は1兆215億円。従業員は597人。21年3月期の連結純利益は11億円だ。
両グループ合わせた総資産は4兆2429億円。東北では、七十七銀行(仙台市)、東邦銀行(福島市)に次ぐ規模になる。青森銀行とみちのく銀行が統合すれば4位に下がるが、それでも3県のトップ地銀のそれを上回る。営業拠点は6県に広がり、東北3県を主な営業基盤とする広域金融グループが誕生する。統合の狙いは収益力を強化して公的資金を返済することにある。北都銀と東北銀は、それぞれ100億円の公的資金を受け入れており、返済に向けた財務の改善・強化が喫緊の課題となっていた。
フィデアHDの田尾祐一社長は公的資金の返済に関して「なるべく早い時期にしっかり返していきたいという思いがある」と述べた。
東北銀のフィデアHD傘下入りの決断には、22年4月に予定されている東京証券取引所の市場再編が影響した、との指摘もある。最上位の「プライム市場」の上場基準は株式の時価総額が100億円以上などと定められているが、東北銀は約95億円にとどまる。約220億円のフィデアHDのグループ入りを決断したもうひとつの理由だ。
経営統合後のリストラには限界がある。というのも、フィデアHDはすでに5年で店舗を4割削減しており、これ以上減らす余地は少ない。秋田、山形、岩手は、どこも経済が衰退しており、競合する有力金融機関と小さな市場を奪い合う構図は変わりない。統合後の貸出残高は単純合計で約2兆3600億円(21年3月期)。東北最大の七十七銀行の半分にも及ばない。
東北地区の地銀の広域再編の核はSBIHDか
九州では有力地銀を核とする県をまたぐ広域金融グループが相次いで誕生したが、東北ではそうした動きはなかった。岩手県には岩手銀行(盛岡市)、北日本銀行(同)、東北銀行と上場している地銀が3つもある。県内3位の東北銀は公的資金を抱えており、再編のカードとみられていた。
山形県も山形銀行(山形市)、荘内銀行、きらやか銀行(山形市)と3行あった。荘内銀は秋田県の北都銀行と統合してフィデアHDとなり、今回、岩手県の東北銀行が合流する。
第2地銀のきらやか銀行は、宮城県の仙台銀行(仙台市)と統合して、じもとホールディングス(HD、仙台市)が発足した。きらやか銀、仙台銀は東日本大震災に伴う特別措置の400億円を含む総額600億円の公的資金が注入されていて、これが背中を押した。公的資金の返済のためには、収益を持続的に生み出す仕組みの構築は待ったなしだったが、統合効果を十分に発揮できず苦しんでいた。じもとHDの21年3月期の最終損益は31億円の赤字。上場71行の地銀・グループの当期純利益ランキングでワースト2位である。
福島県も東邦銀行(福島市)、福島銀行(同)、大東銀行(郡山市)の3行がある。福島の地域金融機関は壊滅状態で、地銀の東邦銀の21年3月期の最終損益は46億円の赤字。当期純利益ランキングでワースト1位だった。
第2地銀の福島銀の最終赤字は17億円だったから、じもとHDに次いでワースト3位。同じく第2地銀の大東銀の最終損益は9億円の黒字だが、利益の絶対額は小さくワースト8位である。福島県の金融機関は3行ともワースト10に入るという異常事態なのである。
本来なら福島県のリーディングバンクの東邦銀が2つの第2地銀を“救済合併”すべきなのかもしれないが、東邦銀にその意向はない。東北は九州のように有力地銀を核とする広域金融グループは生まれていない。現在までのところ、2番手グループによる弱者連合でしかない。
大手地銀に代わり、広域地銀の核となるとの期待があるのは、地銀連合による「第4のメガバンク構想」を掲げるインターネット金融大手、SBIホールディングスだ。SBIHDは19年に福島銀行、20年、じもとHDと資本業務提携した。大東銀行にも出資しているが、大東銀は「第4のメガバンク」入りを拒否していると伝わる。
SBIHDは群馬県の第2地銀、東和銀行(前橋市)とも資本業務提携した。SBIHDを核にフィデアHD、福島銀、東和銀の東北・北関東の広域地銀グループを形成するとの観測が流れている。日本銀行は再編に向けてアメを用意した。経営統合や経費削減を進めた地銀に対して、当座預金の金利を上乗せする異例の制度を22年3月に始める。
東北地方の「1県3行」の地域が火薬庫となる。
(文=編集部)