わが国では多くの企業がコストの削減を重視し、ネットワーク・テクノロジーの活用を通した省人化を進めている。ただ、コスト削減だけでは企業の成長は難しい。企業のトップライン(売上高)の拡大も必要だ。具体的には、成長率が高い=期待収益率が高い地域、分野への進出が求められる。
金融機関のなかで、コスト削減と、期待収益率の高い分野への進出を強化する三菱UFJ銀行の動きが注目される。これまでには見られなかったほどのスピードとマグニチュードが感じられる。それだけ、将来への危機感が強いのだろう。特に、今後3年間で同行が支店数を90程度削減することは見逃せない。高度成長期であれば、旺盛な資金需要に支えられ、支店を増やせば収益が増えた。もはや、これまでの常識で成長を追求することは困難になっている。いい換えれば、同行は新しい発想によって成長を追求しようとしている。
そのひとつに、他企業との連携がある。オープンなかたちで新しい金融サービスの普及や、ICT(情報コミュニケーションテクノロジー)の実用を目指す金融機関が増えれば、わが国の金融サービスのあり方も大きく変わるだろう。
金融ビジネスの生産性革命
2013年4月に日本銀行が開始した“量的・質的金融緩和”は、2年間で2%程度の物価目標(インフレ・ターゲット)を達成し、デフレ経済から脱却することを目指した。それから5年以上が経過したが、消費者物価指数でみた物価は2%に達していない。この状況下、日銀は異次元の金融緩和を継続せざるを得ない。
その結果、国内では低金利環境が続いている。加えて、資金への需要も弱い。昨年末時点で、金融と保険業を除く企業部門は417兆円のキャッシュを保有している。一般事業法人としては、投資しようにも、需要が見込める案件が少ないということだ。
資金需要が高まらないなか、銀行の収益は、内外の債券や政策保有目的による株式などの運用収益に依存している。規模の小さい金融機関ほど有価証券運用(ディーリング)への依存度は高い。それは金融市場の動向に左右され、持続性ある収益基盤ではない。
そのなかで、収益性の改善を目指している筆頭が、三菱UFJ銀行だ。同行の取り組みは、費用の削減にとどまらない。それは、従来の銀行ビジネスから脱却する“変革”ととらえるべきだ。同行の取り組みは、削減できるコストは徹底的にカットする。その上で、新しい発想・テクノロジーを用いてリスクを管理しつつ収益の引き上げを目指すことと表現できる。端的にいえば、銀行ビジネスの生産性革命だ。