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日立、売上1千億円のベンチャーを1兆円で買収の賭け…IoT・医療を中核事業にシフト

文=編集部
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日立製作所のロゴ(「wikipedia」より/Gnsin)

 日立製作所の社長兼最高執行責任者(COO)に6月23日付で就任した小島啓二氏(64)は、遺伝子検査でがんの予兆を見つけ出す診断技術などヘルスケア事業に積極投資する方針だ。2023年度までの3年間で計3000億円を投じ、中核事業に育てたいとしている。3000億円のうち半分はM&A(合併・買収)に、残りは研究開発や設備投資に充てる。

 M&Aについて小島氏は「遺伝子工学分野のテクノロジーを持つ企業を買収する可能性がある」と述べた。血液中のがん細胞の遺伝子変調を調べる技術を持つ企業のM&Aを想定している。がんの早期発見・治療が期待される分野で競争力を高める。

 体外診断や放射線がん治療など成長市場と位置付ける4分野について、売上高にあたる売上収益を24年度(25年3月期)に21年度(22年3月期)比7割増の約3600億円に拡大することを目指す。柱となるのが遺伝子診断など患者の個人データを生かした領域で、24年度までに売上高(売上収益)2000億円規模の事業に育てる。

 微量の血液に含まれる遺伝子から疾病の予兆を見つけるサービスを実用化する。20年に生化学分析装置でシェア首位の日立ハイテクノロジーを完全子会社にした。日立ハイテクが持つ微細な細胞や遺伝子の解析技術を活用してデータを収集。電力などのインフラや工場の稼働状況分析など、およそ1000件のデータビジネスで得た解析技術と掛け合わせる。

 再生医療の分野では、iPS細胞の最適な培養条件をAI(人工知能)で算出するシステムの開発に取り組む。コンピュータ断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像診断機器事業を21年3月、富士フイルムホールディングスに売却し、医療分野でもハードからソフトへ軸足を移した。

米ITを1兆円で買収

 7年ぶりに社長が交代した。副社長だった小島氏が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格。東原敏昭社長(66)は会長兼最高経営責任者(CEO)に就いた。病気療養中の中西宏明会長は5月12日付で退任しており、相談役に退いた。

 中西氏は19年5月以降、リンパ腫の治療のために断続的に入院治療を続けてきたが、病気療養に専念。経団連の会長も6月1日付で退任し、6月27日に死去した。享年75歳。小島氏は1982年、京都大学大学院理学研究科を修了し、日立製作所に入社。研究畑を歩み、中央研究所所長や日立研究所所長などの主要ポストを歴任した。あらゆる機器をつなぐモノのインターネット(IoT)の独自基盤「ルマーダ」の開発を主導し、近年は家電や医療分野の事業統括本部長として構造改革で手腕を発揮した。

 社会的課題の解決や企業の生産性向上を支援する「ルマーダ」を戦略事業に位置付けている。同事業の売上収益は2024年度に21年度比2.7倍の3兆円を目指す。7月14日に買収が完了した米ITベンチャー、グローバルロジックを「ルマーダ」のグローバル展開に生かす。グローバルロジックはあらゆるモノがインターネットでつながるIoTやAIをハードに組み合わせるデジタルエンジニアリングに強みを持つとされている。

 小島氏は「日本が抱えるいろいろな製品事業を革新していきたい」とグローバルロジックの買収に大きな期待をかけている。グローバルロジックは00年に創業して急成長している新興企業だ。世界14カ国に2万人の従業員を抱え、通信や金融、自動車、ヘルスケアなど欧米の大手企業を中心に400社以上の顧客を持ち、デジタル化に必要なシステムやソフトウエアを開発している。

「日立が持つ製品や制御技術にグローバルロジックが持つバーチャル(仮想)の技術を連携させる。リアルとバーチャルを連携させて、単独ではできなかった魔法が起きる」。グローバルロジックのシャシャンク・サマント最高経営責任者(CEO)は、7月19日付日経産業新聞のインタビューでこう答えている。

 日立は産業機器や鉄道、家電など日本を代表する製造業大手だが、近年は単純なモノ売りから脱し、モノとインターネットをつなぐデジタル企業への転換を進めている。今回のグローバルロジックの買収も、その一環。日立が成長戦略の中核とする「ルマーダ」の世界展開を加速させる狙いがある。

「のれん代」は7100億円に

 理想は高いが、現実の数字はまだそこまで届いていない。連結売上高に占めるIoT関連比率は13%。インフラ事業を中心にデジタル化が遅れている。グローバルロジックの20年度の売上高は9億2800万ドル(約1000億円)にとどまるが、買収額は有利子負債の返済分も含め1兆368億円と1兆円の大台を超える。

 買収資金を何年で回収できるかの目安となる「EV(企業価値)/EBITDA(利払い前・税引き前利益・償却前)倍率」でみると、21年予想ベースだと約37倍になる。M&Aの関係者からは「高値づかみ」との疑問の声が出る。

 買収資金の内訳は、手元資金約2000億円と銀行借入れ・社債で約8000億円である。1兆円のうち7000億円は営業キャッシュフローと資産の入れ替えで捻出し、1年後には返済義務のある有利子負債は3000億円程度がドル建てで残ると見込んでいる。

 実は日立は奥の手を用意している。グローバルロジックの買収資金は、上場子会社の日立金属の売却で調達する。米投資ファンドのベインキャピタル、国内系ファンドの日本産業パートナーズ、3メガバンクと日本政策投資銀行が共同出資する企業再生ファンドのジャパン・インダストリアル・ソリューションズの日米連合が、日立金属の優先交渉権を得た。日立は日立金属株の約53%を保有しており、全株を売却する方針。売却額は8000億円を超える見通しだ。

 グローバルロジックの買収に伴う「のれん代」は7100億円にのぼる。買収後の成長が見込み通りにいかなければ、将来的に減損処理を迫られることもあり得る。ルマーダ事業とのシナジー効果をどこまで出せるかかが、日立変革の行方を左右する。21年3月期決算でEBIT(利払い前・税引き前利益)が1兆円を超えた企業は約70社。日本企業ではソフトバンクグループ、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、KDDIが入る。

 小島新社長が目指す、日立の「1兆円クラブ入り」を実現するのは並大抵なことではない。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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