前回の記事で、アマチュアスポーツ界における組織上層部によるパワハラ問題や、独裁的な経営がされている組織などにおける不祥事など一連の騒動は、氷山の一角にすぎず、日本社会全体に“組織の金属疲労”が起きているのではないかと指摘しました。そして、そうした日本の組織で起きている事象は欧米のトップスクールで教えられているネットワーク分析の理論(以下、ネットワーク理論)とプラットフォーム戦略®を学ぶことでより深く理解できると指摘しました。前回はS・グラノヴェッターの「弱い紐帯の強さ(“The strength of weak ties”)」とシカゴ大学ビジネススクール教授のロナルド・S・バートの「構造的空隙の理論」をご紹介しましたが、今回は「ネットワーク密度」と「構造同値」について説明しましょう。(プラットフォーム戦略®は株式会社ネットストラテジーの登録商標です)
グラノヴェッターの「弱い紐帯の強さ」の研究成果は、簡単にいえば「いつもはそれほど密接につながっていない知人」のほうが、はるかに有用な情報を提供してくれる、ということでした。バートはこのグラノヴェッターの「弱い紐帯の強さ」の概念をさらに発展させ、「一部のグループの人間により支配されている組織はパフォーマンスが悪くなる」「企業が競争優位を保つためには、構造的空隙(くうげき)が大切である」と提唱しました。「空隙」とは「すきま」という意味です。そして、ある人脈ネットワーク内で人と人とがどのくらい密接に関係し合っているかを測る指標のことを、「ネットワーク密度」といいます。
密度が濃いネットワークとは、自分の好きな人や同じような考え方をしている人とだけつながっているようなネットワークのことを意味します。それは密度が濃いがゆえに「空隙が小さい」といえます。
みなさんもSNSなどを使う場合、自分と同じような考え方をしている人とのほうがつながりやすいことを実感されているのではないでしょうか。通常の人脈ネットワークでは自分の好きな人や同じ考えの人とだけつながっていく傾向があるため、自然に任せておくとどうしても高密度かつ同質的になっていきます。
しかし、こうした「強い紐帯」のネットワーク内においては、自分たちと異なる意見をもつような人とのつながりが弱いことによって、外部からの情報収集力が弱くなります。それだけでなく、こうした高密度のネットワーク内にいると、情報は瞬時に共有化されてしまうために、もし自分が異なる意見をもったとしても、勝手な行動や発言がなかなかできなくなります。