つまり、高密度なネットワークでは自由に動ける隙間、すなわち「空隙」がなくなってしまうのです。いわゆるムラ社会でみなと異なることを言うと「村八分」になる、というのが典型例でしょう。
そうしたことを踏まえたうえで、「ネットワークを維持するコスト」は誰でも基本的には同じであると仮定すると、ネットワーク密度が低い、すなわち「空隙が大きい」ネットワークのほうが同じコストでさまざまな情報を得られる、とバートは議論しました。そして、空隙を多く含んだネットワークをもつ人は、ポジションとして優位な立場になり、行動や交渉においてもその自由度の高さによって優位性をもつ、と論じたのです。
昇進が早い人の特徴
それでは個人としてどのように行動すれば良いのでしょうか。
バートは、アメリカの大手情報機器メーカーの管理職を対象にした調査から、「パーソナルネットワークに遠方の人を数多く含んでいる管理職は昇進が早い」という理論を導き出しました。つまり、社内で高く評価され、出世が早い人物は、その人自身と日常的にはあまり接しないような人たちとの関係を大切にしているのです。
さらに社会的境界で生きる人は、社会的に同質的な環境にいる人よりも、起業家的機転を使って生きる傾向が強いとしています。ここで社会的境界とは、2つの社会的領域が出会う場所であり、そこではある種の人々が他の種の人々に出会う場所のことを意味しています。
たとえば、本社の企画部などの本部にいる管理職よりも、海外や地方、子会社など中枢から離れた職場にいる管理職のほうが、さまざまな人との交渉などを経験できるため、情報をより多く収集できるようになる、ということでしょう。近年、子会社のトップからいきなり親会社の大企業のトップになる人事などが見られるのも、激動する経営環境において、さまざまな人脈ネットワークを有することが重要になってきている証左ではないかと思います。
とくにインターネット、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーンなど新技術によって従来のビジネスの方法論が変化している現代では、それまでエリートコースといわれた本社企画部門で過ごした人よりも、「他流試合」の経験が豊富な人材が求められてくる、ということではないでしょうか。
つまり、個人としてさまざまな経験(転職を含む)をした人材は出世が早くなる傾向があり、企業としては、新卒・中途採用を問わず、なるべく多様なバックグラウンドや人脈をもった人材を採り入れることによって、新しいリソースを手に入れられる、ということになります。