「構造同値」のポジションから脱出せよ
さらにバートは「構造同値」のポジション、すなわち、ほかの人とまったく同じポジション(位置)を占めているは競合関係に巻き込まれやすい、と議論しました。
「構造同値」とは、ネットワーク内のある人をほかの人と入れ替えても、人脈ネットワークの構造に変化がないことを指します。つまり会社でいえば、「構造同値」とは、いつでも他人にとって代わられる存在といえます。したがって個人の戦略としてはできるだけ、こうしたポジションから脱出する必要があります。
バートは自分が他者とどの程度、構造同値か、自分がかかわりをもつほかの人々がどれだけ密度が濃く結束しているかによって、人々がネットワーク内部で持つ空隙の量が決定するとしました。
たとえば、あなたは会社に知り合いが10人いるとします。そして彼らの知り合いもその10人だけで、かつ10人全員がお互いを知っていたとします。その場合、あなたと残りの9人は「構造同値」の関係にあり、あなたが会社を辞めても9人の人脈ネットワークはまったく変わらない(あなたがいないだけ)ということになります。密度が濃く結束している場合には、すぐに他の人と「構造同値」になってしまうのです。それが「空隙がない」ということです。
そこでは、もしあなたがほかの会社に転職する場合でも、元の職場で築いた人間関係を自身にとって大切なものと見なし、その関係を良好なものにしておけば、新しい職場では、あなた以外の人の人間関係とあなたの人間関係とは重ならない可能性が高くなります。その結果、あなたは新しい会社においては構造同値になりにくいポジションになれる、ということです。
「立つ鳥跡を濁さず」という諺がありますが、長い人生のなかでは必ず、以前所属していた組織やそこにいた人たち、あるいは学生時代の知人とも関係をもつ可能性が生まれるものです。そうした意味からも、過去に出会ったあらゆる人たちとのつながりを大切にすることが、ネットワーク理論上は重要だといえるでしょう。
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(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)