トルコのエルドアン大統領は10月23日、「事前に計画された殺人だった」と認定。「偶然的な死だった」とするサウジ政府の説明を否定した。ただ、殺害を示す具体的な証拠を明示せず、関与が取り沙汰されているムハンマド皇太子の名前も出さなかった。
ロイター通信は10月22日、皇太子の右腕とされる人物がインターネット電話を通じて事件現場を見守り、「犬の頭を持ってこい」と殺害を指示した、と伝えた。
サウジ検察当局は10月25日、「カショギ記者の殺害は計画的な犯罪だった」と初めて認めた。サウジ政府は皇太子の責任をあくまで否定するかたちで幕引きを急ぐが、当初、偶発的な事故で死亡したと主張し続けたことで、サウジに対する世界各国の不信はかえって膨らんだ。
ソフトバンクの経営にも影響が出るとの懸念に加え、通信料金の値下げによる収益低下の可能性が指摘され、11月1日の東京株式市場でソフトバンク株は一時、8224円(前日比834円安)まで下落した。世界的な株安でソフトバンク株から資金が流出していることや、同社がサウジ政府と運用する巨大ファンドの投資戦略にも不透明感が広がったことから、株価の下落に拍車がかかった。
孫氏は10月25日までサウジの首都リヤドで開かれた国際投資会議「フューチャー・インベストメント・イニシアチブ」に姿を見せなかった。サウジ入りしていたとされるが、講演を取り止めただけでなく会場にも現れなかった。
国際金融筋には、「SVFがサウジマネーをロンダリング(洗浄)している」という辛口の見方が急激に広がっている。「欧米のIT企業は、SVFからの出資を敬遠するだろう。SVFは投資戦略の根本的な見直しを迫られる。孫氏はピンチだ」(有力国際金融筋)ともいわれている。
サウジは国家の威信にかかわる危機にある。「SVFへの追加出資は白紙に戻る可能性がある」と指摘するM&A関係者もいる。ここ数年、主に英ロンドンに滞在していたサウジのサルマン国王の実弟、アフマド王子が帰国したと、ロイター通信などが10月31日に伝えた。王室内の調停のためだといわれている。事件を機にムハンマド皇太子への不満が強まり、王室内に動揺が広がっているとの見方ができよう。
いまや世界中で“サウジマネー”に距離を取る経営者が増えている。サウジ情勢は風雲急を告げる。孫氏はサウジの動向を、固唾をのんで見守っている。
(文=編集部)