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西川立一「流通戦争最前線」

スーパー、無秩序な激動の業界再編突入…「対イオン&ドンキ戦略」が生死分けるカギ

文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー
スーパー、無秩序な激動の業界再編突入…「対イオン&ドンキ戦略」が生死分けるカギの画像1イオン店舗(「wikipedia」より/Kirakirameister)

 この秋、流通業界で勢力地図が塗り替わる事態が起こり、いよいよ激動の業界再編の幕が開こうとしている。

 ドンキホーテホールディングス(HD)はユニーの株式を取得して子会社化し、同時にユニーファミリーマートHDの親会社である伊藤忠商事がドンキHDの株式を20%取得した。ドンキHDとユニーの年間売上は1兆6000億円となり、イトーヨーカ堂を抜いて、スーパー首位のイオンリテールの2兆1978億円に次ぐ2位に浮上、ユニーファミリーマートHDとしては4兆7000億円に達し、イオン、セブン&アイHDに次ぐ巨大流通グループが誕生することになる。

 ディスカウントのドンキHDは業界の異端児でアウトサイダー、ユニーは中京地区を地盤とする大手スーパーで老舗といってもいいメインストリーム、いわば下剋上の合併劇である。ドンキHDは29期連続増収増益で、8000億円企業にまで成長した新興勢力だが、一方のユニーは近年、業績が低迷し経営再建に取り組んできた。2016年9月、ファミリーマートと経営統合し、2017年11月にはドンキHDとも資本・業務提携を行った。

 そして、今年2月から3月にかけて、GMS(総合スーパー)の「アピタ」「ピアゴ」6店舗を、ドンキHDのノウハウを導入した「MEGAドン・キホーテUNY」に業態変更し、改装後の半年間の売上が1.9倍となった。

「ユニクロ」や「ニトリ」といった有力専門店の台頭で客離れが進んだGMSが、ディスカウントという荒療治で見事再生を果たしたわけだが、来期も20店舗でこの業態変更が予定され、さらにドンキ化が進む。遅かれ早かれドンキHDに吸収されるとみていたが、今回ユニーがドンキHDの子会社になり、予想以上に早い流れになった。

 ドンキHDはウォルマートが売却するといわれている西友の店舗にも興味を示しており、さらなるM&Aの可能性もあり、規模拡大も予想される。

 ドンキHDは、スーパーの本部主導の中央集権的なチェーンストアオペレーションとは真逆の「顧客最優先主義」に基づき、現場に権限がある「主権在現」を掲げて、店舗に権限を委譲し、仕入れや運営を任せる個店主義を貫いてきた。狭い空間に商品を積み上げる「圧縮陳列」や、手書きPOPの洪水、ジャングルや迷路のような売場で「ワクワク・ドキドキの買い場」にし、エンターテイメント性を重視した店づくりで、Eコマースの利便性と対抗しようとしている。

 若者は音楽をストリーミングやダウンロードで楽しむ流れが進むなかで、ライブ会場にも足を運ぶ。ドンキHDの店舗はライブ会場の役割を果たし、利便性ではEコマースに劣るが、ネットでは決して体験できない買い物の楽しみを提供することで差別化を実現させようとしている。リアルの対ネット戦略において、ドンキは立ち位置がきわめて明快である。2020年以降の10年タームでも、ドンキHDが再編のキープレイヤーの一社として重要な役割を果たすだろう。

ローカルスーパーvs.イオン

 一方で、連邦経営を旗印に、マイカル、ダイエー、マルエツ、マルナカなど多くの企業を傘下に収めてきたイオンも動いた。10月、中四国で事業を展開するスーパーフジに資本参加し、事実上フジはイオングループ入りした。

 この事態を招いたのは、フジの立ち位置にある。中国地方では「ゆめタウン」のイズミの存在が大きく、イオングループのマックスバリュ西日本、マルナカの攻勢も目立ち、守勢に立たされていた。この状況を打開するため、独立路線で行くのではなく、敵のひとつであるイオンの懐に飛び込むことで、今後の生き残りを担保しようという決断をした。イオンは地域スーパーの統合も進めることになり、中四国ではマックスバリュ西日本とマルナカ、山陽マルナカが経営統合され、これにフジが加わることが予想され、このエリアでさらに存在感が高まる。

 これに先立ちイズミも4月、セブン&アイHDと業務提携し、商品調達などを共同で行い、広島県福山市のイトーヨーカドーの店舗の運営を引き受けることになった。イズミがセブン&アイグループ入りするものではなく、今のところ部分的な連携で、取り組みもあまり進んでいないようだ。

 岐阜のバロー、滋賀の平和堂、和歌山のオークワなど、今後、独立系の有力ローカルスーパーの去就も注目されるが、すでに北海道のアークスはユニバースなど北東北のチェーンをグループ化し、連合体として一定の存在感を示している。

 イオンはすでに食品スーパー事業では3兆2000億円規模で、唯一の食品スーパーの全国チェーンとして一頭地を抜いた存在だ。今後も各地でローカル食品スーパーvs.イオンの構図が鮮明となり、ローカル食品スーパーは対イオンの戦術がより必要とされ、生き残るための長期戦略も求められ、合従連衡の動きも活発化するものと思われる。

業種・業態の枠組みを超えた再編

 人口減少により消費マーケットが収縮していくなかでは寡占化は必須で、互いに競い合う「競合」から生き残りをかけて争う「競争」の時代となり、生存競争はより激しさを増し、コンビニはすでにセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3社に事実上集約された。これに対しスーパー業界は淘汰が進んだとはいえ、まだまだプレイヤーが多く、局地戦では大手チェーンの苦戦も目立つ。しかし、10年というスパンでとらえれば、今後、寡占化は確実に進んでいく。

 再編劇での主要プレイヤーは、イオンドンキHDに加え、Eコマース、ファンドなども見込まれ、成長余力のあるドラッグストアの参入も可能性があり、幕はまだ上がったばかりで、第2、第3の幕が上がっていくだろう。

 ただ、リアルとネットという構図のなかで、将来的にはリアルの店舗網の拡大が重荷となることも予想され、M&Aによる投資回収も急がれることになる。リアルにおける業界再編が進行しながら、同時にこれから流通のありようは確実に変わっていく。業界再編というスキームを超え、既存の延長線上での店舗網の拡大による成果を無意味にする新たなイノベーションが起こる可能性もある。

 そして注目されるのが、電子マネーやスマホによる決済手段を軸にした合従連衡だ。イズミはセブン&アイHDとの提携で、電子マネー「ナナコ」の共同利用も大きな目的であった。さらに11月、楽天はKDDIと業務提携し、約120万の出店店舗で来年4月からKDDIが開始するスマホ決済「auペイ」の導入を目指す。

 今後、こうした動きにスーパー業界も反応することが予想され、従来とは異なる図式で、業界、業種・業態の枠組みを超えた再編が起こる可能性も大きい。
(文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

流通ジャーナリスト。マーケティングプランナー。慶応義塾大学卒業。大手スーパー西友に勤務後、独立し、販促、広報、マーケティング業務を手掛ける。流通専門紙誌やビジネス誌に執筆。流通・サービスを中心に、取材、講演活動を続け、テレビ、ラジオのニュースや情報番組に解説者として出演している。

Twitter:@nishikawaryu

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