船井電機と同社を2021年に買収した秀和システムホールディングス(HD)をめぐる不可解な資金の流れが徐々に明らかになりつつある。12月3日付「朝日新聞」記事によれば、9月に船井電機社長を退任した上田智一氏(秀和システムHD、および親会社の秀和システムの代表取締役)が退任直前に船井電機の経営権を1円でファンドに売却していたことが判明。さらに3日のNHKの報道によれば、船井電機の破産管財人が親会社・FUNAI GROUP(旧船井電機HD)の破産申し立てを行い、先月21日に東京地裁はFUNAI GROUPの資産を保全する保全管理命令を出していたという(破産手続きの開始決定の可否は未決定)。秀和による買収以降、船井電機から約300億円の資金が流出するなど、資金の流れに疑問が寄せられるなか、10月には取締役の一人が準自己破産を申し立てて東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた一方、同社会長が東京地裁に民事再生法の適用を申請。同一企業が破産と民事再生をほぼ同時に申請するという異例の事態が生じている。背景には何があるのか。金融業界関係者は「最近、潤沢な現金を持っている会社を買い、すぐに現金を抜いてどこかに消えるという事例が増加している」と警鐘を鳴らす。
東京地裁がFUNAI GROUPの資産を保全する保全管理命令を出したことにより、同社は自社保有財産を自由に処分できなくなった。
「FUNAI GROUPは船井電機の持ち株会社として秀和が23年に設立したもので、船井電機はFUNAI GROUPに多額の貸し付けを行って焦げ付きが発生し、それが船井電機の破綻の要因の一つとなった。NHK報道によれば、その貸し付け金額が253億円あまりであったことが判明した。創業家側の取締役の一人が東京地裁に準自己破産を申し立てて破産手続き開始が決定したのが10月24日で、直後にそれを知った会長の原田義昭氏(元環境相)が同決定の取り消しを申し立て、さらに原田氏は今月2日に東京地裁に民事再生法の適用を申請している。以上の経緯を踏まえると、これ以上、船井電機およびFUNAI GROUPから何者かの主導により資産が流出しないよう、原田氏側の意向で裁判所にFUNAI GROUPの資産を保全する保全管理命令を出させるよう動いたのではないか」(金融業界関係者)
ちなみに船井電機が東京地裁から破産手続き開始の決定を受ける際、同社は準自己破産を申し立てていたが、一般的に同社ほどの規模の大企業は、取締役会など会社としての正式決定を受けて裁判所に自己破産を申し立てる。準自己破産とは、なんらかの理由で正式に取締役会の承認を得ている猶予がない場合などに取られる手段であり、一部の取締役のみでも申し立てが可能。
全従業員も即時に解雇され、このまま破産するとみられたが、準自己破産の申し立て直前の10月に代表取締役会長に就いていた原田氏は、破産手続き開始決定の直後に取り消しを求めて東京高裁に即時抗告。さらに今月2日に東京地裁に民事再生法の適用を申請して受理された。原田氏は、準自己破産の申立人は10月に開催された「みなし株主総会」で取締役を解任されており、申し立ての権限を有していなかったと説明している。
秀和による買収で船井電機の財務は大きく棄損
船井電機が秀和システムHDによって買収された後の資金の流れには不可解な点が目立つ。船井電機は21年に秀和システムHDのTOB(株式公開買い付け)を受け入れて上場廃止となり、秀和の上田智一社長が船井電機社長に就任したが、秀和は船井電機を買収する資金のうち180億円を銀行から借り入れで調達する際、船井電機の定期預金を担保にし、船井電機に保証させるかたちにしていた。LBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法だが、最終的に担保は銀行に回収されている。23年、秀和は船井電機の持ち株会社として船井電機HD(現FUNAI GROUP)を設立し、同年に船井電機HDは脱毛サロン・ミュゼプラチナムを買収したが、ミュゼプラチナムへの資金援助が原因で船井電機には33億円の簿外債務が発生。さらに船井電機は船井電機HDに多額の貸し付けを行い、焦げ付きが発生していた。
破産を決定づけたのも、ミュゼプラチナムの買収だとみられている。ミュゼプラチナムが代金未払いで広告会社に対し抱えていた負債について船井電機HDが連帯保証しており、船井電機の9割の株式を広告会社が仮差し押さえするという事態が起きていたという。これらの結果、船井電機からは秀和による買収後、約300億円の資金が流出した。
秀和による買収で船井電機の財務は大きく棄損した。買収前の20年度の時点では、船井電機は売上が804億円、営業損益が3億円の赤字、最終損益が1200万円の赤字で、現預金は344億円、純資産は518億円あった。だが、秀和による買収後わずか3年で負債総額は461億円に膨れ上がり、117億円の債務超過に陥った。昨年度の売上高は3年前の約半分の434億円、最終損益は131億円の赤字となった。
また、船井電機HDは20年度には518億円あった純資産が、21年の秀和システムHDによる買収を経て23年度には202億円にまで減少している。
「買った側はすぐに現金を抜いてどこかに消える」
12月3日付「朝日新聞」記事によれば、9月に船井電機社長を退任した上田智一氏が退任直前に同社の経営権を1円でファンドに売却し、さらに上田氏と同氏が所有する会社が船井電機から借りていた11億円超の返済を免除する旨もファンドとの間で取り交わされていたという。いったい何が起きていたのか。M&Aに詳しい金融業界関係者はいう。
「最近、大手・中堅の仲介会社が特定のストロングバイヤーに対し、潤沢な現金を持っている会社を買い取る話を持ち掛け、買った側はすぐに現金を抜いてどこかに消えるという事例が増加しています。船井電機もその被害にあったようにしか見えません。ただ、会社規模がとても大きいことに加えて、M&A界隈では有名なある企業も絡んできたりして話題になっていましたが、経営者が1円で経営権を譲渡したという話には『そんな手があったのか』ととても驚きました。
オーナー企業は株主と社長が同一なので、社長がやりたい放題にやれます。なぜならば、利益相反行為だろうが何だろうが、株主代表訴訟の標的になりえないからです。船井電機は非上場化することによって事実上オーナー社長が経営する状態となり、社長のやりたい放題になったということです。そして資産が底をついて“もぬけの殻”になったところで、手続き的には法に背かずに残りカスの法人を消滅させ、社長はファンドに経営権を売って、さらに『社長が船井電機に借りている11億円超は返さなくていいからね』という約束をファンドと取り交わすことで、合法的に借金を早期に帳消しにしたわけです。この手法には驚きしかありません。ただ、なぜそこまでするのかは不明ですが、いろいろなものをセットで処理したいという意図があったからだと推察されます。
報道では船井電機の社長が経営権をファンドに譲渡したとされていますが、本当にファンド形式で運営していたとしたら出資者がいるので、1円で取得した会社が持っていた11億円以上の債権を放棄する、さらには条件によっては1円で買い戻させるということは、許されることではありません。なぜなら、ファンドは利益を上げて出資者に還元しなければならないからです。よって、純粋なファンドではない存在である可能性も考えられます」
今回のような経営権の事実上タダでの譲渡、その後の破産というのは、よくあるケースなのか。
「赤字かつ債務超過で企業価値がマイナスの会社が1円で売買されることはよくあります。一方、一般的に企業の経営者はなんとか持続させようと最大限の努力をするものであり、船井電機のように経営者が積極的に自社を潰しにかかるようなことは正常ではありません。通常とは異なる何らかの論理や動機が働いたと考えられます」(同)
船井電機の歴史
1961年にトランジスタラジオなどの電機製品のメーカーとして設立された船井電機が大きく成長する契機となったのが、米ウォルマートとの取引開始だった。1990年代にウォルマートと提携し、全米の同社店舗で船井のテレビをはじめとするAV機器を販売。OEM(相手先ブランドによる生産)供給の拡大やオランダのフィリップスからの北米テレビ事業取得(2008年)などもあり、世界的に名を知られる存在となった。
しかし、好調は続かなかった。2010年代に入ると、徹底したコスト低減による低価格を強みにシェアを拡大させていた船井電機は、海信集団(ハイセンス)やTCL集団など中国勢の台頭に押され業績が悪化。創業者である船井哲良・取締役相談役(当時)は大きく経営戦略を転換させ、北米向けの低価格のOEM供給から国内向けの4Kテレビなど高品質商品を自社ブランドで販売する方針にシフト。16年にはFUNAIブランドのテレビについてヤマダ電機(現ヤマダデンキ)と10年間の独占供給契約を締結するなどしたが、業績は好転せず。
17年に船井氏が死去すると、北海道の病院で院長を務める長男は船井電機株の34.18%を相続。長男は複数の投資ファンドなどから株売却の話を持ち掛けられたが、船井電機に株譲渡の意向を示し、これを受け同社は秀和システムと協議し、21年に秀和システムHDのTOB(株式公開買い付け)を受け入れて上場廃止にとなった。
(文=Business Journal編集部)