居酒屋業界の市場の縮小が続くなか、酒類大手の「やまや」と、その子会社の居酒屋「チムニー」が、共同で「つぼ八」を買収する。つぼ八の親会社である日鉄住金物産から、やまやが53.8%、チムニーが34%の株式を11月30日付で取得する。取得額は非公開。
やまやは全国330店舗(10月29日現在)の酒販専門店を展開しており、2018年3月期の連結売上高は1689億円、営業利益は74億円。
居酒屋「はなの舞」や「さかなや道場」などを運営するチムニーは、全国に747店舗(直営店344店、コントラクト<委託契約>店92店、フランチャイズ店279店、グループ会社32店/9月30日現在)ある。18年3月期の売上高は467億円、営業利益は30億円。
一方、居酒屋「つぼ八」「伊藤課長」などを運営するつぼ八は241店舗(直営店52店、フランチャイズ店国内175店、海外14店)。18年3月期の売上高は75億円、営業利益は1億円にとどまる。
チムニーとつぼ八を単純合算すると、店舗数は988店、売上高は542億円となる。居酒屋チェーンは軒並み客数の減少が止まらず、チムニーとつぼ八も減収減益が続いていた。人手不足などで新たな出店も難しくなっており、チムニーとつぼ八は規模の拡大によって調達コストを下げるほか、業態転換も進めて来店客を増やす考えだ。チムニーは日本食を軸とした「和」、つぼ八は肉類の「洋」という業態のため、経営統合による相乗効果を期待できるとしている。
紆余曲折を経て、つぼ八はようやく飲食企業の傘下に入ることになる。ここで、つぼ八の軌跡を辿ってみたい。
イトマンによる“つぼ八乗っ取り”事件
つぼ八の創業者は、石井誠二氏。1942年、東京生まれ。自伝『居酒屋の道』(小学館文庫)によると、中学校を卒業していくつかの職を転々としたあと21歳の時、特に当てもなく北海道に渡った。列車の中で出会った行商人の女性たちに加わって行商を3年間続けた後、養鶏場に勤めて鶏肉加工の技術を身につけ、30歳で独立。73年、札幌市西区の雑居ビルの2階に「北海道つぼ八」を開店した。店の面積が8坪だったことから付けた店名だ。
開店にあたり石井氏は、ターゲットを若いサラリーマンと女性に絞る。赤提灯とは一線を画し、北欧をイメージしたレンガ造りのインテリアにした。新鮮なものを格安で提供することを目指し、メニューは一律150円と決めた。店は評判を呼び、オイルショックを機に客が急増。店舗は順調に増え、81年には50店を超えた。