実行委員の1人でルポライターの古川琢也さんの説明によると、これは王将の新人研修などを手がけている企業・アイウィルの社長が、同社の会報誌に書いた内容。古川さんは「(フランス人権宣言以降の)過去300年ほどの人類の歴史を否定している」と言う。
ワタミも、会社の方針をまとめた「理念集」というタイトルの教典で、「365日24時間死ぬまで働け」という一節を収録している。娘を過労自殺で亡くした遺族は、これを「未必の故意」「殺意」と非難している。
●刑事事件に問えないか?
だが、違法な労働条件などにより社員が過労死しても、その企業の経営者が刑事事件で起訴されたり、有罪になったという話は聞かない。
授賞式のあと、今回ノミネートされた企業と同じようなケースで代表者が起訴されたという報道がないかどうか、筆者が新聞記事データベースを使って調べると、1つもヒットしなかった。
従業員を過労死させたというだけでは、違法にならないからだ。
労働時間には1日8時間、週40時間までという上限が労働基準法で定められているが、労使が協定を結ぶことで、これを超えて労働(残業)させることができる。ところが、残業時間には法的な上限がないため、過労死基準を超える協定を締結すれば、従業員を過労死させただけでは罪に問えない。
「ブラック企業大賞」実行委員会の佐々木亮弁護士は、会場から「過労死を出したノミネート企業の経営者を、業務上過失致死など刑事事件に問えないのか?」との質問に、次のように答えている。
「『刑事責任の問うほどの過失があったとするのは難しい』と検察官が判断することもあり得る。仮に告訴・告発しても、不起訴になる可能性は高いと思う。(起訴されても)無罪になり、(経営者は)悪くなかったと考えられてしまう懸念もある」
ではブラック企業に入社してしまったら、どうすればよいのか?
授賞式の最後で、実行委員の1人で東京東部労組の須田光照書記長は、「こうした企業経営者に対して、1ミリたりとも幻想を持ってはいけない」とした上で、とにかく横のつながりを持てと訴える。
「ブラック企業に入ってしまったらどうするかが問われている。ブラック企業の被害者は自分が悪いと思い込んでいる」
「ブラック企業で働いていても、『緩やかな紐帯』や『連帯』などいろいろな言い方があるが、団結する、つながっていくことだと思う」
「ひどい事例が先行するマスコミにはなかなか載らないが、労働条件を改善させている組合はあちこちにある。展望があると強調したい」
もし自分がブラック企業の被害者になってしまったら、まずは社外の労働組合や支援組織などに相談することから、突破口が開けるかもしれない。
(文=佐藤裕一/回答する記者団)