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伊藤忠によるデサントの敵対的TOB成立…バブル崩壊と株の持ち合い崩れによる歴史的必然

文=菊地浩之
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バブル崩壊による「持ち合い崩れ」が転機に

「株式持ち合い」という言葉は、企業同士が互いに均等に株式を持ち合っているような印象を与えるが、実際は圧倒的に、銀行・生保が所有していた。

「株式持ち合い」の原理は、学生のカンパと同じである。学生がカンパを募ろうと思ったら、親友から1000円ずつ借りるより、そんなに親しくないけどお金は持っている親戚のおじさんやバイト先の店長に頼んだほうがよっぽど効率がいい。出してくれる金額の多寡と親密度とは、必ずしも比例しないのである。

 たとえば家電メーカーなら、プラスチックや板金、電線を購入しているメーカーに1000株を持ってもらうより、事業上の関係は希薄な生保に何十万株かを持ってもらったほうがいい。とうわけで結局、企業の大株主は銀行・生保ばかりになっていった。

 ところがバブルの崩壊で銀行・生保の経営が苦しくなって、所有株式を売却して益出しすると、代わりに大株主になったのが外資系の金融機関や投資ファンドなどである。彼らは日本の企業社会に義理なんかないので、A社から「御社が持っているB社の株を売ってくれ」と頼まれれば、「いくらで?」と応じてしまうのである。

 さらに時代がくだると資金調達の多様化が進んで、銀行ににらまれたからといって資金調達に支障をきたすような時代でもなくなった。外資系銀行ともなれば、企業買収を商売のひとつと考えているようなありさまである。事実、2005年にホリエモンこと堀江貴文がニッポン放送を買収しようとした際には、外資系金融機関が協力したらしい。

 会社を単なる職場としてではなく“運命共同体”と考えている日本では、カネの力に物をいわせてのTOBは、社会的にも評判が悪かった。しかし、今までTOBがまったくなかったわけではなく、事業売却や資本参加などで、売る側も買う側も合意した上で実施される「友好的TOB」は結構行われてきた。

今回、伊藤忠がデサントに対して行った「敵対的TOB」の動きは、TOBが市民権を得てきた時代だからこそ、「敵対的TOB」を仕掛けたところで一方的に悪者にされることはない……という見方があっての行動なのだろう。
(文=菊地浩之)

●菊地浩之(きくち・ひろゆき)
1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『徳川家臣団の謎』(角川選書、2016年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)など多数。

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