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藤和彦「日本と世界の先を読む」

韓国、過去4年でマンション価格2倍に高騰…急落で不動産バブル崩壊の兆候

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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韓国銀行(「Wikipedia」より

 世界のインフレが止まらない。米労働省が2月10日に発表した1月の消費者物価指数(CPI)は前年比7.5%上昇した。昨年12月(7.0%増)から伸びが加速し、1982年以来40年ぶりの高水準となった。足元の原油高も高インフレを助長しており、欧州でも同様の状況だ。

 インフレ予想の高まりを受け、世界の金融市場で金利の上昇が顕著になっている。米国では長期金利の指標となる10年物国債利回りが2年半ぶりに2%台となった。米連邦制度準備理事会(FRB)が今年3月に利上げを行うことも確実視されている。

 新型コロナウイルスのパンデミック下で世界各国は拡張的な財政金融政策を実施し、債務を膨らませてきた。国際通貨基金(IMF)は昨年12月、「世界の債務は過去最大に膨張し、金利が上昇するようになれば、その持続可能性についての懸念が高まる」と指摘していたが、いよいよ緩和局面に転機が訪れようとしている。

 FRBをはじめ世界の中央銀行が金融引き締めに舵を切ろうとするなかで、世界各地で高騰する住宅価格に注目が集まっている。住宅ローンによる不動産投資ブームのせいで世界の家計債務が55兆ドルと過去最高となっているからだ。

 米国の30年物住宅ローン平均金利が2月に入り急上昇し、2019年10月以来の4%台となっている。低金利を奇貨として多額のローンを抱えた家計は金利上昇局面で打撃を被ることから、過熱した住宅市場に急激な調整が起きると懸念されている。

住宅価格、前年比23.9%上昇

 世界のなかで最も激しい不動産バブルが生じている国の一つに韓国がある。英不動産情報会社ナイトフランクが昨年12月に公表した「世界住宅価格指数」によれば、韓国の昨年第3四半期の住宅価格は前年比23.9%上昇し、調査対象となった主要56カ国で上昇幅が最も大きかったという。

 韓国銀行(中央銀行)も「昨年の国内の不動産価格のバブルは25年ぶりに最も大幅に増えた」との見解を示した。ソウルの不動産価格は市民の平均所得の18.5倍と過去最高となり、韓国の家計負債の総額はGDPの120%に達している。

 文在寅大統領就任後の4年間でソウルのマンション価格は2倍近くに高騰したといわれている。文氏は大統領選で公約に掲げた「住宅価格の安定」を実現するため、さまざまな不動産政策を講じてきたが、住宅価格の高騰を抑えることができなかった。政権内で諦めムードが漂い始めていたが、ここに来て「この異常な不動産バブルは近いうちに崩壊するのではないか」と危惧する声が高まっている。

 KB国民銀行が昨年12月下旬に発表した「売買取引動向」で、全国3722カ所の不動産業者のうち「取引が活発だ」と答えたところはなく、96.4%が「閑散としている」と回答したことが明らかになったからだ。

 取引の減少は不動産市場が上昇から下落に転換する重要なシグナルだ。首都ソウルのマンション価格でさえ今年1月下旬から下落し始めている。銀行をはじめとする金融機関が、不動産購入の主役である家計向けの融資を絞り始めていることが影響している。

 韓国銀行は世界の中央銀行に先駆けて昨年8月から金融引き締めに転じているが、「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」。予防策によって不動産市場がさらに不調になれば、過度な借金を抱えている家計による不動産の投げ売りで住宅価格が急落してしまう。

 韓国銀行は「不動産バブル崩壊が起きる確率は10%だ」とした上で「そのような事態になれば経済成長率はマイナス3%になる」と警告を発している。日本の不動産バブルの際には企業が多額の負債を抱えていたが、韓国の場合は家計が多くの借金を負っている。このため、韓国でバブルが崩壊すれば、その影響が広範囲に及び、日本のバブル崩壊時よりも深刻な状況に陥ると予測されている。

韓国も「失われた30年」か

 バブル崩壊後の日本の不動産市場が長期にわたり低迷したが、人口動態が大きく影響していた。1990年の高齢化率は11.4%となり、「高齢社会」入りした日本では、若い世代が家庭を築いてマイホームを所有する動きが鈍化したことから、不動産市場は長期にわたって需要不足に苦しめられた。

 昨年の韓国の高齢化率は15.4%となり、30年前の日本以上に高齢化が進んでいる。韓国のベビーブーム世代(1955~1963年産まれ)が一昨年から高齢者(65歳以上)となり始めており、高齢化のスピードは日本の2倍の速さだとされている。生産年齢人口も2019年から減少に転じている。昨年の韓国の合計特殊出生率は0.84(日本は1.34)となり、世界最下位だ。

 人口動態から見ると、韓国の不動産市場の前途には日本以上の「茨の道」が待っていることがわかる。バブルが崩壊して不動産市場の低迷が続けば、韓国も「失われた30年」を経験する可能性が高いのだ。

 日本経済研究センターは昨年末に「韓国の1人当たり名目GDP(個人の豊かさを示す指標)は2027年には日本を上回る」との試算を公表した。日本でも「日韓逆転は当たり前」との論調が出ているが、はたしてそうだろうか。隔世の感があるが、不動産バブル崩壊直後(1990年)の日本の1人当たり名目GDPは世界第9位と現在よりもはるかに高かった。韓国でも不動産バブルのおかげで順調に伸びている1人当たり名目GDPが、バブル崩壊後に低迷するに違いない。

 韓国の次期大統領選挙は佳境に入っているが、次の大統領を待ち受けているのは不動産バブル崩壊後の深刻な経済状態なのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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