今月は日本には存在せず、韓国には存在する需要項目である建設投資に関する指標を取り上げる。日本の設備投資には、民間部門が建築物に作るなどの投資が含まれている。公共部門が道路や橋梁を作るなどして資本の形成を行った場合、公的固定資本形成、いわゆる公共投資として分類される。韓国では、日本における民間部門が建築物を作るなどの投資と公共部門が資本形成を行うための投資が、建設投資として分類されている。
毎月公表される建設投資に関する指標は、「建設景気動向調査」で把握される「建設既成額」と「建設受注額」である。建設既成額は、名前のとおり、建設が終了して発注者に建設物が引き渡された時点での金額であり、建設投資がまさに実施された時期の数値が計上される。一方、建設受注額は、建設企業が建設工事を受注した時点で計上される金額であり、建設投資に先行する。統計庁は、毎月これら指標を公表しており、我々は建設投資の動向と先行きをきめ細かく把握することができるのである。
建設既成額と建設受注額の母集団は、国内の建設業を営む総合建設企業である。しかしながら、建設景気動向調査はすべての母集団に調査をかける悉皆調査ではなく、一部の企業を選んでその企業に調査を行い、母集団の数値を推計する標本調査である。では、建設景気動向調査ではどのように標本を選んでいるのであろうか。
まず建設既成額である。韓国では毎年、「建設業調査」を行っているが、この調査結果をもとに、母集団に該当する企業を建設既成額の順に並べていく。そして建設既成額が大きいほうから実際に調査する標本企業を選定していく。その合計が母集団全体の建設既成額の50%に達するまで企業の選定を続け、これを超えた時点で選定を打ち切る。標本となった企業だけに、毎月、どの程度建設を行い、建設物を引き渡したか尋ね、その結果から母集団の建設既成額を推計している。
次に建設受注額であるが、これも建設既成額とほぼ同様の方法で推計されている。ただし、建設受注額の40%となったところで標本企業の選定を打ち切るところは、建設既成額と異なる。
建設投資は一時的に減少する可能性
さて実際に建設既成額と建設受注額をみていこう(季節調整値、3カ月移動平均値)。まず建設既成額である。
2019年は概ね11.3兆ウォン程度で推移していたが、コロナ禍が本格化した2020年の上半期から大きく減少するようになった。最も数値が下がった2020年10月は、コロナ禍前の2019年12月と比較して6.5%のマイナスとなったが、これは、民間機関が2020年1月から10カ月連続で減少となったことが大きく、コロナ禍による民需の落ちこみが大きかった結果といえる。ただし、公共機関も2020年3月から7カ月連続で減少しており、財政政策により公共需要が景気を下支えるといった動きはみられなかった。
民間機関も公共機関もともに減少したため、建設既成額は2020年秋まで減少をし続けたが、冬に入りようやく回復の動きが見えてきた。2020年11月からは民間機関は、現在に至るまで2カ月ほどマイナスとなったものの、基調として増加が続き、ほぼ一本調子で建設既成額の増加に寄与している。一方、公共機関はマイナスとなる月も多く、どちらかというと全体の足を引っ張っている。そして総じてみれば、民間機関の需要額のほうが大きいこともあり、建設既成額は減少する月はあるものの、傾向としては回復傾向を示している。
次に建設受注額であるが、今後の建設投資の動きを予測するため、最近の動きをみると(季節調整値、3カ月移動平均値)、2021年4月から7月まで4カ月連続でマイナスとなっている。そしてマイナスの累積は8.8%である。8月には5カ月振りに1.4%のプラスとなったものの、先行指標たる建設受注額の動きからすると、今後の建設投資は一時的に減少する可能性が否定できない。
建設既成額と建設受注額から判断すれば、建設投資はコロナ禍で一時的に減少したものの、昨年の冬頃より回復傾向にある。ただし、今後は減少する可能性もあり、予断を許さない状況といえよう。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)
(図)建設既成額(季節調整値、3カ月移動平均値)
(出所)統計庁「建設景気動向調査」により作成。
(注)公共機関および民間機関の合計の数値である。