今月は重要な需要項目のひとつである韓国の設備投資について取り上げる。設備投資も個人消費と同様、3カ月ごとであればGDP統計をみればよいが、毎月の動きをきめ細かく把握する場合は、設備投資指数をみることが一般的である。これも個人消費と同じであるが、韓国の企画財政部が毎月公表している「最近の経済動向」で、設備投資を毎月把握するために使われている指標が、設備投資指数である。そこで以下では、設備投資指数について、どのような指標であるのか説明したうえで、その最近の動きから設備投資の動向をみていくこととする。
設備投資指数は大きく、機械類と運送装備(自動車など)の2つに分かれており、日本での分類である輸送機械を含む機械設備をカバーしている。ちなみに日本のGDP統計における設備投資には住宅以外の建物・構築物が含まれているが、韓国では建設投資という日本にはない需要項目が別途存在しており、建物・構築物はすべて建設投資に含まれている。よって機械類と運送装備で、韓国のGDP統計における設備投資は、おおむねすべてがカバーされている。
設備投資指数はコモディティフロー法の簡易版により作成される。まずは、機械類など設備投資対象品目について、それぞれ、「国内生産+輸入-輸出」により国内総供給を算出する。そして、産業連関表を利用して、国内総供給のうち消費などではなく設備投資として使用された部分を算出して、その金額を積み上げることで名目値を把握する。最終的にはこれを実質化して基準年(現在は2015年)を100とした指数にすることで、設備投資指数が導出される。
設備投資指数は、設備投資を国内生産や輸入といった供給側から把握した指標であり、毎月公表されている。日本では設備投資の動向を毎月把握するための指標としては資本財出荷指数があるが、これは国内で生産されて輸出された資本財、すなわち国内では設備投資として需要されない財が含まれてしまう一方、国外で生産されて輸入された財、すなわち国内では生産されていないが、国内の設備投資として需要された財が含まれない。韓国の設備投資指数はそのような問題はなく、設備投資の動向を毎月把握するための指標は、韓国のほうが優れているといえよう。
設備投資は景気を下支えした立役者
さて以下では、最近の個人消費の動向を2つの視点からみてみよう。
ひとつの視点は最近の動きであり、増加傾向にあるのか減少傾向にあるのか把握する。そしてもうひとつの視点はコロナ以前の水準に回復したか否かであり、コロナ禍以前である2019年12月の指数を直近の指数がどの程度上回っているか確認する。
まず最近の動きである。2021年7月30日に公表された6月の数値は、前月比(季節調整済、以下同じ)で0.2%減少した。そして前月の5月は2.9%の減少であったが、さらに前月の4月は3.1%の増加であった。傾向をつかむため、3カ月移動平均の数値の前月比をみると、6月は0.0%増と横ばいであり、その前の2カ月間もほぼゼロに近い数値である。よって設備投資はほとんど増加しておらず、この直近3カ月間の動きから判断すると設備投資は不振のようにもみえる。
ただし設備投資は、個人消費や輸出といった需要項目が軒並みコロナ禍で昨年夏頃まで大きく減少していたのに対し、ほとんど減少しなかった。つまりコロナ禍の影響をほとんど受けなかった。数値で確認すると、コロナ禍直前の2019年12月の設備投資指数は100.0であったが、2020年3月に99.0までわずかに減少して以降は増加が続き、2021年6月には112.3となり、年率に換算すると8.0%増加した。
以上から判断すると、設備投資は、直近3カ月は横ばいであるが、コロナ禍以降もほとんど減少せず、年率8%といった比較的高い伸びで推移してきた。つまり設備投資は、コロナ禍の影響を受けず順調に増加したといえる。
この背景には、コロナ禍の下でも好調であった半導体産業が旺盛に設備投資を行ったことなどがある。韓国経済はコロナ禍の悪影響を受けて落ち込んだが、落ち込みの程度は他の先進国と比較して軽微であった。これは設備投資がコロナ禍の下でも順調であったからであり、設備投資は景気を下支えした立役者であった。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)