東電関係者は「社内で今一番盛んな活動が送別会」と苦笑する。同社では、毎月どこかの部署で依願退職者の送別会が開かれているという。今年度の依願退職者数は7月までの4カ月間だけで100名以上に達し、昨年度分を合わせると1200名以上が東電を去ったといわれている。人材流出が止まる気配は一向にない。
特に「働き盛りで優秀な人材ほど、さっさと去ってゆく」(東電関係者)という。例えば、経営戦略を担当していた経営改革本部企画部の中堅社員はソフトバンクへ、新規事業を担当していた同本部新成長タスクフォース事務局の中堅社員は楽天へ転職していったという。
給料が福島原発事故前と比べ3割も減り、さらに事故のずさんな事後対策で社会の批判を浴び、社外の友人、知人、親戚などから白い目で見られているうちに鬱病になり、退職する社員も後を絶たないようだ。「事故前まで、東電社員はエリートの証しだったが、事故後は『東電社員は無能の証し』。飲み屋で絶対身分を明かせない」と苦笑する同社社員もいる。
さらにゆく手には「魔の12月」(証券アナリスト)が待ち受けている。
同社は今年10月に金融機関から約800億円の融資借り換えを控え、続く12月に約3000億円の新規借り入れを予定している。だが、現状では14年3月期の赤字脱却の見通しが「視界不良」。金融機関が納得できる視界不良解消策を示さなければ、12月の新規借り入れも困難になる。借り入れに失敗すれば、運転資金にも事欠く状態になる。銀行側も「3期連続の経常赤字になれば、東電向け融資が不良債権化し、巨額の貸倒引当金計上を迫られるリスクを抱えている。12月の新規融資は、より慎重にならざるを得ない」(証券アナリスト)状況にある。
このほか、10兆円規模と見積もられている福島原発事故の除染費用、増え続ける汚染水の対策費、9月19日に安倍晋三首相が指示した福島原発5、6号機の廃炉費用など、新たな負担で経営再建に向けた環境は悪化の一途だ。
同社の経営再建計画は、ゼロベースからの練り直しが求められている。
(文=福井晋/フリーライター)