タクシー業界は、会社により待遇がまるで違う。大手は売り上げのノルマがきつく、稼げるがストレスも溜まる。一方、中小はノルマが低い分、給料も低いがストレスも少ない。そんな業界で働くタクシードライバーたちは、日々どのように仕事をこなしているのだろうか。客として乗っているだけでは決してわかないタクシー業界の裏側について、会社の違う2人のドライバーに聞いてみた。
同じ売り上げでも手取り収入に差が出る理由
――お二人の営業スタイルを教えてください。
山川(仮名/40代) 私は、東京で「4社」と呼ばれる大手のうちの1社に勤めています。常に“中”(港区、千代田区、中央区など)で仕事をしており、流しと無線がメインです。月に11出番の隔日勤務で、朝8時から20時間ほど走っています。タクシー歴は12年です。
山崎(仮名/60代) 私も東京ですが、住み慣れた江戸川区で駅付けをしています。いわゆるローカル営業ですね。駅や病院でのツケ待ちと、無線が多いですね。富裕層の住む地区で見下されたり横柄な態度を取られたりするのが嫌で、ローカル専門にしました。以前は隔日勤務(以下、隔勤)でしたが、今は日勤で、月24回、朝8時から12時間走っています。タクシー歴は20年です。
――売り上げに対する歩合はどれぐらいですか。
山川 1日の売り上げが5万円(税抜き、以下同)以上だと、62%(年3回の賞与含む)です。仮に10万円を売り上げた場合、消費税を引いた9万0900円の62%なので、賞与を含めて5万6000円ほどもらえます。税抜き5万円は、給料日後の週末などであれば簡単にできますが、給料日前の平日は厳しいことも少なくないです。ちなみに4~5万円だと57%、4万円以下だと52%に下がります。先日、知り合いの運転手は他社に70%という条件で引き抜かれていました。
山崎 私のような営業スタイルでは10万円などまず無理ですが、うちの会社は最大53%なので、売り上げ10万円だったら手取りは4万8000円です。
――同じ売り上げで、手取りが8000円も違うんですね。
山川 おそらく、うちは業界内でもトップクラスだと思います。5月の給料は(11出番で)40万円でした。ただ、歩合率が高い分、労働時間や休憩時間に対するチェックも厳しく、営業成績の低い運転手は会社から「もっとやってこい!」と叱られています。どの運転手も月に13出番を強いられ、平均売り上げに届かない人ほどネチネチ言われますね。また、「遠回りされた」など客からのクレームがタクシー近代化センターに行くと、数日間出勤できなくなります。
山崎 うちは高齢の運転手が多いので、14時間走って3万円ぐらいで帰ってくるケースがほとんどですが、会社は何も言いません。その場合、手取りは1万3500円で月給は16万2000円と安いですが、私を含めて年金をもらっているので無理をしないんです。出番数も一応の目安はありますが、強制はなく、私は10回を目標にしています。また、会社に内緒で副業をしていたり、タクシーを副業としている運転手も数名いますね。
――売り上げを上げるほど疲労も溜まりますし、高齢だと長時間はきついですよね。運転手の平均年齢は?
山川 うちは20代が10人、30代が15人、40代が15人、50代が一番多くて30人。最高齢は65歳です。平均年齢は50歳ぐらいかな。
山崎 うちは若いのが30代で3人いるけど、一番多いのは60代。80代の運転手も数名います。平均で60代後半かな。80代の運転手は1日1万円であがってきます。
タクシー運転手が“オバケ”と呼ぶ客とは?
――出勤時間の規則はありますか?
山川 うちは早番が朝6時から8時の間で、遅番は昼12時までに出庫しなければなりません。
山崎 何時に出ようと、相方(同じ車を使っている運転手)に迷惑をかけない限り文句は言われません。平日は朝5時ですが、金曜と土曜は深夜専門で走ることもあります。このあたりは個人タクシーの感覚ですね。
――都心を走るのとローカル営業の違いはなんでしょうか?
山崎 私は都心で走った経験もありますが、都心とローカルの最大の違いは平日の売り上げです。都心は降ろした場所に次の客がいたりするので時間平均4000円でしたが、流して乗せられないローカルだと、降ろしてから駅に戻るまで空車となるので3000円に下がります。昼間12時間走った場合、都心より1万円低くなりますね。青タン(22~朝5時)の売り上げも、都心より1万円ほど低いです。
山川 客の多い日で時給換算すると、平均して都心は昼間2000円、青タンは4000円前後になります。
山崎 ローカルは昼1300円、青タン3000円です。
――売り上げが高まる「ロング客」に出会う確率は?
山川 私のように都心でやっていると、1日平均で1本、万シュウ(1万円以上の乗車)に出会いますね。銀座や六本木、赤坂で多いです。
山崎 ローカルは場所によります。居酒屋が多い駅だと、週末は平均1本ありますが、平日はほぼありません。客の多い日に、降ろした先から一番早く乗せられる場所に向かうと、夜の売り上げは都心と変わらなくなります。また、オバケ客(3万円以上)に遭遇する確率は都心より高いかもしれません。
――今までで一番遠い客は?
山川 東日本大震災のとき、無線でテレビ局に呼ばれ、東京と福島を往復しました。待ち時間も入れて10万円でしたが、これは別格の超ロングです。その次は小田原だったかな。確か4万円でした。
山崎 今年、江戸川区から千葉県の海沿いに2回乗せました。2回とも3万円台でした。あと、成田空港も3回あります。そのうち2回は、電車が止まったときでした。
――タクシーの場合、チップをくれる客もいますよね。
山川 都心で流しをしていると7割ぐらいがカード払いなので、チップはもらえないです。たまに1万円をくれて「釣りはいいよ」なんて人もいますが、平均すると300円ぐらいですね。
山崎 ローカル営業の場合、日中は高齢者がメイン客ですが、いい対応をすると「釣りはいいです」なんて人も多いです。タクシー運転手の多くは自分の話ばかりしますが、私は客に質問したり、客の承認欲求を満たす話し方をするので、1日1000円ほど出ますね。食事代にしています。