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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

日本のスクリーンは韓国サムスンに技術だけ取られ、売上高シェアも逆転された

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
日本のスクリーンは韓国サムスンに技術だけ取られ、売上高シェアも逆転されたの画像1
SCREENホールディングスのHPより

半導体製造装置の売上高ランキングの異変

 半導体製造装置の売上高ランキング・トップ10でちょっとした異変が起きている。その異変とは、2021年に韓国の装置メーカーのSEMESが、洗浄装置で世界1位のシェアを持つ日本のSCREEN(スクリーン)を抜いて6位にランクインしたことである(図1)。

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 2000年以降、装置の売上高ランキング・トップ10は日米欧が独占してきた。また、2007年以降は、トップ5が米アプライドマテリアルズ(AMAT)、欧州のASML、米Lam Research(Lam)、東京エレクトロン(TEL)、米KLAに固定されていた。トップ5以上と6位以下には売上高に大きな差があるが、これまで6~10位は、日米欧の装置メーカーが上位を目指して激しいランキング争いを展開してきた。

 そのようななか、2016年に韓国のSEMESが初めてトップ10入りを果たした。その後、SEMESは2019年にトップ10から落ちてしまったが、2020年に再びトップ10入りした。そして、2013年以降6位の座を占めていたスクリーンに替わって、2021年にSEMESが初めて6位にランクインしたのである。

 このように、装置メーカーとしてSEMESが急成長している。そこで本稿では、なぜSEMESが6位にランクインするほど成長できたのかを分析してみたい。

SEMESの生立ち

 時は1993年に遡る。この頃、韓国サムスン電子はDRAMの企業別の売上高で世界1位に躍り出ていた。そして、そのサムスン電子は、ニコン、TEL、大日本スクリーン製造(のちのスクリーン)など日本の装置メーカーに、サムスン電子向けの装置は韓国内でつくるように求めてきたという。

 しかし、多くの日本メーカーは、技術流出を恐れてそれを拒否した。ただし、大量に装置を買ってくれるカスタマーの要求を無下に断ることもできないので、装置の最終調整を韓国国内で行うようにした。要するに、形だけは従っているように見せかけて、お茶を濁したわけだ。

 ところが、スクリーンだけはサムスン電子の要求に応じて、1993年1月にサムスンと合弁でK-DNSを設立してしまった。スクリーンはこの頃、「大日本スクリーン製造」という社名であり、DNSと略されていた。だから、K-DNSとは「KoreaのDNS」という意味であろう。そしてK-DNSには、スクリーンの技術者が多数派遣され、サムスン電子用の洗浄装置はここで製造されることになった(図2)。

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 実際に、現地生産された洗浄装置の1号機は、1994年5月にサムスン電子の器興工場に納入された。その後もK-DNSはサムスン電子用の洗浄装置を供給し続けた。そのK-DNSは、 2005年1月に社名を「SEMES」に変更した。SEMESの“SE”は、Samsung Electronicsの頭文字である。

 さらに2010年にはスクリーンはSEMESの持ち株を売却し、SEMESはサムスン電子の100%子会社となった。恐らく、スクリーンがすすんで売却したのではなく、サムスン電子から圧力をかけられて売却せざるを得ない状態になったのだろう。その後、サムスン電子の洗浄装置はすべてSEMES製となり、スクリーンは1台もサムスン電子に装置を供給できなくなったという話が伝わってきた。要するに、スクリーンは軒を貸して母屋を乗っ取られてしまったわけだ。そして、2021年にとうとう装置の売上高で、僅差ではあるがSEMESがスクリーンを追い越してしまったというわけでである。

洗浄装置におけるパラダイムシフト

 スクリーンもSEMESも、洗浄装置を主力のビジネスとしている。その洗浄装置については2008年にパラダイムシフトが起きた(図3)。洗浄装置には25~100枚のシリコンウエハを同時に洗浄するウエットステーション(またはバッチ式洗浄装置)と、ウエハを1枚ずつ洗浄するスプレー洗浄装置(枚葉式洗浄装置)の2種類がある。

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 バッチ式は1時間当たりの処理枚数(スループット)が大きいが、洗浄で剥がれたパーティクルがウエハに再付着するという問題がある。一方、枚葉式はパーティクルの再付着の問題はないが、スループットが悪い。

 以上の理由から、2007年まではスループット優先で、バッチ式が主流だった。ところが、2008年以降、バッチ式に替わって枚葉式が主流になってきた。この原因は次の通りである。

 枚葉式のスループットを向上させるために、一つの洗浄装置のプラットフォームに洗浄槽を4槽、8槽、16槽、そして32槽と増やしていった。その結果、枚葉式のスループットがバッチ式を追い越してしまったのである。となると、パーティクルの再付着が起きるバッチ式を使う理由はない。このようにして、枚葉式が洗浄装置の主流になったのである。したがって、洗浄装置ビジネスとしては、枚葉式でどれだけシェアを占めることができるかということが重要になってくる。

枚葉式洗浄装置の企業別シェア

 図4に、枚葉式洗浄装置の出荷額と企業別シェアの推移を示す。2003年頃からスクリーンのシェアが急増していくが、洗浄装置にパラダイムシフトが起きた直後の2009年に、スクリーンのシェアは約70%でピークアウトした。その後、上下動しながらスクリーンのシェアは低下していき、2021年には最盛期の半分近い38%に落ち込んでいる。

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 一方、枚葉式が主力になった2008年以降、オーストリアの洗浄装置メーカーSEZを買収したLam、SEMES、TELの3社が熾烈な2位争いを展開している。2021年には、2位がTEL(23.8%)、3位がSEMES(19.5%)、4位がLam(14.2%)だった。このように、枚葉式洗浄装置ではスクリーンが世界シェア1位であるが、そのシェアは低下傾向にある。近い将来、TELやSEMESに追いつかれてもおかしくない状況にあるといえる。

コータ・デベロッパの企業別シェア

 スクリーンとSEMESは、洗浄装置以外にもレジストを塗布し現像するコータ・デベロッパを販売している。その出荷額と企業別シェアを見てみると、TELが断トツのトップシェアで、2021年は88.8%を独占した(図5)。

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 一方、スクリーンは1998年に最大20%のシェアを獲得したこともあったが、その後シェアはじり貧となり、2021年には2.6%まで低下してしまった。ところが、SEMESはスクリーンを抜き、2021年に8.1%のシェアを獲得している。コータ・デベロッパの世界市場は2020年に24億ドルだったが、2021年に約1.4倍の33億ドルに急拡大している。したがって、規模が大きくなっているコータ・デベロッパ市場で大きくシェアを落としたスクリーンと、シェアを向上させたSEMESで明暗が分かれることになったと考えられる。

まとめと今後の展望

 2021年にSEMESがスクリーンを抜いて、装置の売上高ランキングで6位に躍進した。その理由を挙げてみると、次のようになる。

1)枚葉式洗浄装置では、スクリーンが2020年から2021年にかけてシェアを低下させる一方、SEMESは2019年から2021年にかけてシェアを増大させた。

2)コータ・デベロッパでは、スクリーンがシェアを低下させ続けている一方、SEMESは2019年以降シェアを増大させ、スクリーンを抜いた。

3)今回の分析では言及しなかったが、SEMESはドライエッチング装置でも売上高を増大させている。

 2021年のSEMESの装置売上高は22.14億ドルで、7位のスクリーンの21.99憶ドルとは僅か1500万ドルしか差がない。したがって、2022年以降に再びスクリーンがSEMESを抜くことも考えられる。しかし、そのためにはジリ貧気味の枚葉式洗浄装置のシェアの低下を食い止める必要があるだろう。

 一方、SEMESはスクリーンにはないドライエッチング装置のビジネスに参入している。現在SEMESのドライエッチング装置の売上高は、Lam、TEL、AMATの上位3社には遠く及ばない。しかし、SEMESの背後にはサムスン電子が控えている。もしSEMESがサムスン電子の要求に応える性能のドライエッチング装置を開発できれば、さらに大きく飛躍する可能性がある。

 今後、枚葉式洗浄装置でスクリーンが巻き返すか、SEMESがさらに飛躍するのか、スクリーンとSEMESの装置売上高ランキング争いに注目していきたい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは 微細加工研究所

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