過酷な局アナの実態〜人気アナ出演一極集中の弊害、自腹高額出費、守ってくれない会社…
–世間では、女子アナの方々は華やかな生活を送っているというイメージがありますが、実際はいかがですか?
長谷川 世間がうらやむような生活はできないどころか、金銭的には困窮しているのが現実だと思います。バラエティー番組に出演する時の衣装などはすべて自腹ですし、プライベートで食事をしていても、一般の人々に写真を撮られてすぐにネットで配信される時代ですから、ちょっと出かける時でさえ、変な服は着られません。ですから、普通の女性よりも3~4倍はお金がかかるのではないでしょうか? 加えて、セキュリティー面には相当気を使わなければ危険ですので、住居にもかなりお金がかかります。もちろん住宅手当はありますが、それは全社員一律のもので、私の在籍当時で月2万円強ほどでした。
最も問題なのは女子アナが何か危険な目に遭っても、会社は一切守ってくれないという事実です。電車通勤ですし、あくまで他の社員と同等の扱いです。フジテレビでは、アナウンサーは仕事上やむを得ない場合以外は、タクシーに乗っても領収書を切れませんので、彼女たちは仕方なく自腹でタクシーに乗るわけです。女子アナだけでも、もうちょっと待遇を良くしてあげないとかわいそうだと思いますね。
–これまでに問題が起きたことはないのですか?
長谷川 ありましたよ。ある女性アナウンサーがストーカー被害に遭って、私も同伴して警察に被害届を出したことがあります。そのことを上司に報告したところ、「大変な事態になったら報告して」の一言で終わり。ショックでした。信じられないでしょうけれども、これが実態です。自分の身は自分で守るしかないわけです。
–制作部門や営業部門の社員も、タクシー代などの費用を会社に請求できないのですか?
長谷川 制作は、領収書があればタクシー代や食事代を会社に請求できます。でも、アナウンサーは請求できません。これはフジテレビの伝統で、アナウンス室の評価が異常に低いからです。そして、労働組合がないに等しいので、労働者の権利を主張できないのです。他局は労働組合がもっとしっかりしています。例えば、日本テレビでは10年に賃金制度改革をめぐり、アナウンサーも参加したストライキを行いましたね。このような行動はフジテレビでは不可能です。
私はフジテレビを辞め、他の企業の方々とお付き合いするようになってからわかったのですが、コンプライアンスは一般企業のほうがはるかに進んでいます。特にセクハラ問題はそう思います。フジテレビは安定株主に守られているので、仮に文句を言う人が出てきたら無視すればいい。つまり、コンプライアンス機能が働かず、世間の常識が通用しない、まるでガラパゴス状態になっている部分が存在しています。
●フジテレビはアナウンサーを育成しない?
–アナウンサーの育成についてお聞きしたいのですが、入社後はどのようなプロセスを経て、一人前のアナウンサーとしてカメラの前に立てるのでしょうか?
長谷川 たぶんテレビ局によって違うと思います。フジテレビの場合は、冗談のような研修を6週間やるだけです。その後は、「とにかく楽しんでこい」という感じで現場に出されます。テレビ朝日のように1年以上かけてみっちり鍛えるところもありますし、日本テレビやTBSでもきちんと鍛えているようですよ。フジテレビは、ちょっと特殊です。
私の場合は、最初に競馬の実況を担当させてもらうまでに4年半かかりました。ただ、実況する前の4年間も土日は競馬場に通って、先輩たちの仕事の手伝いをしながら、実況の練習をしていました。そして、G1レースの実況をするまでには9年かかりました。
–その冗談のような研修というのは、具体的にどういうものですか?
長谷川 例えば、「元気ですかあー!」と大きな声を出すとか(笑)。だから、普通のアナウンサーなら誰もが言える有名な早口言葉の練習に使われる「ういろう売り」を空で言えないのは、フジテレビのアナウンサーだけです。こうしたフジテレビの方針は、三人娘と呼ばれた八木亜希子、河野景子、有賀さつきの時代以来、「とにかくキャラクター重視で行く」という考え方が強まってから続いています。
なので、バラエティー番組などで活躍しているフジテレビの女子アナは、堅いニュース原稿などを文字上だけは読めるとは思いますが、単語の意味はわからないと思います。そういう研修はしませんから。
ただ、誤解してほしくないのは、原稿は読めなくても、バラエティーで笑いはとれます。フジテレビでは彼女たちをタレントとして使っているわけですから、ニュースを読むよりも笑いをとるほうが大事です。そして、女子アナをタレントとしてタダで使っているから、経営的にも助かっているという面もあります。
–計画的にアナウンサーを育成していくという仕組みはないのですか?
長谷川 ありませんね。フジテレビに関して言えば、アナウンス室独自の育成方針は立てられないということです。言われる仕事をこなす、それだけです。
どうしてそういう状況になってしまうかというと、フジテレビには「番組を作っている人間がえらい」という、意味不明な価値観があるのです。つまり、みんなで番組を作っているはずなのですが、アナウンス室は制作局や編成局の“下請け”なのです。だから、これらの部署から「この番組に、あの女子アナを使う」と言われたら、アナウンス室としては従わざるを得ない。そして、みんな自分の実績以外は考えていないので、視聴率を稼ぐために人気の女子アナは引っ張りだこになり、仕事が集中する。
例えば、現在はフリーの高島彩は、元同局時代に年末から正月にかけての特番に出ずっぱりで、その結果、何度も体を壊していました。あれだけ使われたら、体を壊さないほうがおかしい。でも、今のフジテレビでは上に物申す人間は全部飛ばされますから、アナウンス室の上司も言われるままに従うしかないわけです。
–それだけ一人に仕事が集中していれば、仕事のない人も出てくるのではないですか?