建物の建設を行う大工や、足場の組み立てといった作業を行うとび工など、多くの職人に支えられている建設業界。地震、土砂崩れ、津波などの災害時に陥没した道路や倒壊した建物の復旧を請け負う業界でもある。
そんななか、土木道路管理系の公務員を名乗る一般Twitterユーザーが8月5日に投稿したあるツイートが、3400件以上の「いいね」を集め(8月21日現在)、大きな話題を呼んでいるのだ。そのツイートとは、業界の人材不足が顕著になっていることを示唆した下記のつぶやき。
「国民よ。災害発生で建設業が助けて当然だと思うなよ。すでに建設業者の人材不足はヤバいレベルだからな」
ツイートのリプ欄には、業界関係者と思われる別のTwitterユーザーらから、
「現場労働者の不足は笑えないレベル。住んでいる家のメンテナンスすらどうにもならない」
「通常工事ですら人手不足なのに、災害時に大量の人的資源を回すことなんてできない」
といったコメントも数多く寄せられている。
このような声もさることながら、実際のデータを見ても建設業就業者数の減少は明らか。2021年の国土交通省の発表によると、20年度末の建設業者数は約47万業者で、ピーク時である1999年度末の約60万業者からおよそ21%も減少。2020年度末のデータでは建設業就業者数は約492万人となっており、こちらも1997年の約685万人からおよそ28%も数を減らす結果となっているのだ。
災害時に建設業者の確保が充分に行えなかった場合、社会インフラの復旧が遅れる可能性は大いにある。そこで今回は、建設ITジャーナリストである家入龍太氏に国内の建設業就業者の実態について詳しく聞いた。
3Kのイメージが大きく、賃金も上がりにくい構造なのが原因か
まず、なぜ建設業就業者の数が減っているのか。
「生産活動の中心層である生産年齢人口(15歳~65歳未満)が、1990年代をピークに減少し続けており、全産業で人手不足に見舞われていることが主因ではありますが、とりわけ建設業界はきつい・汚い・危険という3Kのイメージが強く、他業界よりも人口が少なくなっている印象です。
また国の建設投資額自体が、92年の約84兆円を境に減少傾向にあることも要因のひとつ。そして、建設不況や民主党政権時の公共事業の引き締めによって、多くの零細企業が消えたことによる影響も大きかったです。ここ10年は、東日本大震災の復興事業、東京オリンピック・パラリンピック開催により建設業への需要は増しましたが、一度建設業界を離れた人が戻ってくることは稀。そのため建設業界は慢性的な人手不足なのだと考えられます」(家入氏)
現在の建設業界は需要こそあるものの、供給がまったく足りていない状況のようだ。さらに、今すでに慢性的に人員不足なのにもかかわらず、将来的には状況が悪化する可能性が大きいという。
「日本建設業連合会が毎年発行する『建設業ハンドブック』(2021年版)にある建設業就業者の年齢別構成比によれば、建設業のうち55歳以上が36.0%、29歳以下が11.8%となっています。これが全産業では55歳以上が31.1%、29歳以下が16.6%となっているため、建設業では全産業に比べて55歳以上の高齢者が多く、29歳以下の若手が少ないことがデータではっきりと表されています。
若者が建設業で働きたがらない理由は前述の3Kがあるでしょうが、もう少し掘り下げて考えると、労働時間が長い、休日が少ないなど多様な原因があるでしょう。給料に関しては、近年の需要増大の影響などにより年々改善されつつあるものの、上がりにくいというのが現状ですしね」(同)
若い人材がほしいところだが、3Kというイメージがある以上、参入をためらう若者は多いということか。しかし、需要が増していて人手不足ということであれば、市場原理で職人や技術者が重宝され、賃金は上がりそうなものだが。
「建設業界全体としては、労働基準法を遵守する方針であることは間違いありませんし、国土交通省も公共工事用の労務単価を毎年公表しているため、賃金は上昇傾向にあります。ですが、基本的に建設業は元請、一次下請、二次下請と続く重層下請構造が主流です。限られた予算のなかで、各々の業者にお金を支払わなければならないため、下請けの下請けといった職人は賃金が上がりづらくなってしまいます。また基本的に出来高制なので、天気次第で中止になる可能性もあり、収入を安定して確保しにくいのも難点でしょう」(同)
このまま人手不足が進むと、災害時にも対応できなくなる?
依然として若者を中心に建設業就業者の数が減っているのは事実のようだ。そこで気になるのが、大工、技術者など現場職人の技術。業界人口の減少により、その質は落ちてはいないのだろうか。
「高齢のベテラン職人が年々少なくなってきているため、経験の少ない職人が増え、職人全体のレベルが下がっていることは否めません。大工に限った話ではありませんが、職人の技術は経験、勘、度胸というKKDが基本です。そのため場数を踏んで、少しずつ職人としての勘を養っていくほかないです。しかし近年では、再開発のスピードが速い、人員も増えていないという事情があり、親方が子方に技術指導する機会は少なくなっていると考えられます」(同)
現在のように普通工事ですら手一杯な状況のなかで災害が発生してしまうと、これまで以上に復旧に時間がかかるかもしれない。
「従来、建設業は“身近な自衛隊”のような存在であり、地震や土砂災害などの災害復旧なども担っていました。自衛隊が到着した際に、道路交通をスムーズに確保できているのはその地域の建設業就業者のおかげだったんです。
つまり、建設業の人口が減ると、このような当たり前のことが行われなくなってしまいます。今でこそ自衛隊は防衛省の広報活動により災害復旧の担い手としての認知が広まりましたが、災害時における建設業者の活動は、自衛隊ほど大きく報じられてきませんでした。そのため新規人材も集まりづらく、今後の災害時の復旧はさらに遅れることが懸念されますね」(同)
今後予想される南海トラフ地震など未曾有の大災害が起きた場合、建設業界は充分な対応ができるのだろうか。
「21年に内閣府が出した被害想定によると、停電は最大2710万軒、通信不通回線は930万回線、避難者は950万人、資産などの被害は169.5兆円となっております。防災・減災のために必要な設備や建設人材を確保することが重要になってくるでしょう。
まずは人手不足をカバーするために、工場生産による機械やロボットの導入による自動化・省人化を進めることが急務です。実際に大手の建設業者では、KKDからデータドリブン(ビッグデータとアルゴリズムによって課題解決を行うプロセス)への転換が見られますね。
そして、希少化する作業員や職人に対しては、スキルに合った収入が得られるようなキャリアアップシステムが必要でしょう。国内でも『建設キャリアアップシステム』(CCUS)というシステムはあるものの、加入率は低く、実用性は低いままです。実際に作業するのはほかならぬ作業員、職人なので収入面の安定はしっかりと保障していただきたいですね。
そして国土交通省には、現場で働く職人や技術者のステータスが上がるように、上手く建設業界のことをPRしてほしいです。先に挙げた自衛隊は広報活動のおかげで災害時の対応がマスコミに大きく取り上げられ世間から評価されたので、建設業界も外に活動内容を発信していく必要があるでしょう」(同)
建設業の人材難は非常に厳しいようだ。3Kというイメージを払拭し、人材確保していけるのかが肝だろう。そして何より、人々の生活が懸かっているため、国、業界だけではなく、我々一人ひとりが真剣に考えなければいけない問題なのではないだろうか。
(取材・文=文月/A4studio)