ジェットスターの内情はもっと深刻だ。
航空業界関係者は「LCCを語る時、ジェットスターは便宜上JAL系に色分けされているが、実態はオーストラリアのカンタス航空グループ、JAL、三菱商事、東京センチュリーリース(伊藤忠傘下の総合リース会社)の寄合所帯。4社の思惑が『おいしいLCC事業』をめぐってぶつかり合い、ジェットスターCEOの鈴木みゆき氏は調整役のような存在にすぎない」と指摘する。
そのためか「経営の意思決定が遅く、赤字が膨らみ続けて台所は火の車。13年2月に2度目の増資を経て120億円になった資本金は、早くも食いつぶしつつある状態」(同)といわれている。
この両社と対照的な経営を行っているのがピーチだ。「ANAが筆頭株主で、自身もANAから送り込まれた身でありながら、井上慎一CEOは経営主導権をしっかりと掌握、ANAに干渉されない自主独立のLCC事業を展開している」(LCC関係者)という。
●関空の本拠地化が功を奏す
それをうかがわせるのが、関西国際空港第2ターミナルの同社待合室の出発風景だ。
搭乗前になると、同社待合室はいつも活気づく。機内サービス「ハイ」を目当てにした搭乗者たちで混雑するからだ。
「ハイ」は搭乗者が自分のスマホやタブレット(型端末)に映画を無料ダウンロードできるサービス。サービスを受けようと、搭乗者が同社待合室に出発時刻より早めに集まるため、定時運航率(出発予定時刻15分以内に離陸した便数の割合)を高める効果も発揮している。定時運航率の高さは機材稼働率の高さに直結し、ひいてはコスト圧縮にもつながる。コンテンツ提供数は年内に1000本を超える見通しで、映像サービスで世界的に評価の高いシンガポール航空の提供数に迫る。
ピーチ関係者は「安かろう、悪かろうのLCCでは発展性がない。まずは就航率の高さやハイで、フルサービスのJALやANAを超える顧客満足度を提供するLCCを目指す」と胸を張る。
前出の航空業界関係者は「LCCの収益性は機材稼働率によって決まる。このため、同社は営業開始時から定時運航率と就航率に徹底的にこだわった。この姿勢がたった1年でLCC3社の明暗を分ける要因になった」と、次のように説明する。
門限のある空港では、門限に遅れた最終便は着陸できず、翌朝の始発便を欠航させることになる。これがLCC最大の弱点。この弱点をカバーするため、ピーチは門限のない関西国際空港を本拠地に選んだ。これにより、同社は「機材繰り」による欠航率を0.02%にとどめることに成功した。もし同社が、ジェットスターやエアアジアと同じように、門限のある成田国際空港を本拠地にしていたら、就航率の高さを確保できなかった可能性もある。
●空飛ぶ電車
一方、ピーチの井上CEOは、「当社は営業開始1年目の目標として2つのテーマを掲げた。1つ目は航空会社の使命である安全運航。2つ目は『空飛ぶ電車』というLCCの新しいビジネスモデルの追求」(13年3月26日付「Travel Vision」記事)と語り、同社が目指すビジネスモデルの「空飛ぶ電車」について、次のように説明している。
「電車は自動券売機で切符を買い、自動改札機を通って自分で電車に乗る。電車は定刻発車するので、乗り遅れたら次の電車を待つ。『空飛ぶ電車』もそれと同じ。搭乗者はネットで航空券を買い、自分で航空券のバーコードをスキャンしてチェックインする。飛行機は電車と同じように定刻に出発する。飛行機に乗り遅れたら搭乗者は自己責任になる」
チェックインに遅れた搭乗者には情け容赦のない措置に思えるが、定刻を守ることによって就航率を高め、機材稼働率を上げ、それにより格安運賃を実現している。
「就航当初はこの仕組みを理解してもらえなくて混乱もあったが、チェックイン遅れの搭乗者に何度も説明しているうちに理解してもらえるようになった」(井上CEO)
井上CEOは別のメディアの取材でも「フルサービス系とLCCは、似たようなビジネスながら、総合スーパーとコンビニほどの違いがある」と断言、LCCはLCCに適したビジネスモデルを模索しなければ生き残れないとも語っている。
共同出資や合弁による経営陣の思惑違いが露呈したジェットスターとエアアジア。対して、早くから海外LCCの経営を研究し、明確な経営ビジョンを描いて国内LCC事業に参入したピーチ。井上CEOは「単にA地点からB地点へ格安料金で客を運ぶだけのLCCは自滅する」とも語っている。
3社の明暗は、早くもLCC元年から1年で分かれた格好となった。
(文=福井 晋/フリーライター)