ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 武田薬品、メガファーマ化が急加速
NEW

武田薬品、シャイアー巨額買収の効果が着実に発現…メガファーマ化が急加速

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
【この記事のキーワード】, ,
武田薬品、シャイアー巨額買収の効果が着実に発現…メガファーマ化が急加速の画像1
武田薬品工業のHPより

 最近、武田薬品工業は米国のニンバス・セラピューティクスから免疫疾患の新薬候補を取得すると発表した。アイルランドの製薬大手シャイアーに続く買収実施である。それよって、武田は治療需要の高まる免疫疾患分野を中心にパイプライン=新薬の候補を増やす。これまでに増して、武田は米ファイザーやスイスのロシュなどのメガファーマと互角に競争する力をつけようとしている。それは、日本の医療、製薬関連産業の成長にかなり大きなインパクトを与えるだろう。

 今後の注目点の一つは、プロダクト・ポートフォリオのさらなる強化だ。武田を取り巻く事業環境の厳しさは一段と増すだろう。バイオシミラーと呼ばれるバイオ医薬品の後発薬の登場などによって、競争は激化する。それに加えて、米国や欧州では金融引き締めが続き、資金調達コストも増えるだろう。そうした展開を念頭に武田は、これまで以上のスピードと規模感をもって新薬開発や買収を進めるものと考えられる。

業績拡大支えるシャイアー買収

 武田の業績は拡大している。2023年3月期の売上収益は前年から10%増の3兆9,300億円に達する見通しだ。いくつかの要因があるなかで重要なポイントは、自社で生み出したバイオ医薬品の売上増と、シャイアー買収によるシナジー効果が着実に発現していることだ。2019年、同社は約6兆円を投じてシャイアーの買収を完了した。それによって同社は国内の大手製薬メーカーから、世界トップクラスの製薬企業としての成長を目指す戦略を明確に示した。特に、副反応が少なく治療効果が高いと期待されているバイオ医薬品のポートフォリオ強化に武田は集中し、メガファーマとしての競争力向上に取り組んでいる。

 現在の武田の売上増加を支えている主な製品のひとつは、自社で開発した潰瘍性大腸炎やクローン病治療薬の「エンティビオ」だ。2014年に米国などで承認を得たエンティビオの売上収益は急速に増加し、武田にとって重要なブロックバスターに成長した。ブロックバスターとは、映画の大ヒット作をイメージするとよい。製薬業界では、年間の売上高が10億ドル(1ドル137円換算で1,370億円)を超える稼ぎ頭の製品をそう呼ぶ。特に、米国の炎症性腸疾患の治療薬市場においてエンビディオは高いシェアを手に入れている。想定を上回る成長によって武田はエンビディオのピーク時の売上収益をこれまでの55~65億ドル(7,535~8,905億円)から75~90億ドル(1兆275~1兆2,330億円)に引き上げた。

 業績拡大を支えるもう一つの主力製品は「ラナデルマブ」だ。むくみなどを引き起こす遺伝性血管性浮腫(希少な遺伝性疾患)を治療するバイオ医薬品である。武田はシャイアー買収によってラナデルマブなどをポートフォリオに加えることができた。米国を中心にラナデルマブを必要とする患者は増え、売上増加ペースはエンビディオを上回っている。また、2021年12月に米国で販売が開始された「リブテンシティ」(臓器移植後に発症する感染症治療薬候補)の成長期待も高まっている。

加速するパイプラインの拡充

 武田はさらなる勢いでメガファーマとしての高い成長を実現しようとしている。そのための一つの取り組みとして、新薬のパイプライン拡充に向けた取り組みは加速している。2022年12月13日に米ニンバス・セラピューティクスから乾癬をはじめとする免疫疾患治療候補薬の取得を発表した。ブロックバスターの地位を確立したエンティビオに関しては、2030年以降に後発品が登場し、利益率が低下すると予想されている。

 それは、武田の他の製品にも当てはまる。武田がメガファーマとしての成長力を高めるためには、成長期待の高い免疫疾患治療薬の候補をより多く確保しなければならない。特に、主要国の当局から承認を受ける可能性が高く、かつ急速な需要拡大が見込まれるバイオ医薬品などのパイプラインを増やすことの重要性は、今後一段と高まる。有望な新薬候補を持つ企業の価値は上昇する可能性が高い。

 ただ、高いコストを支払って取得した資産が、想定された通りの収益獲得につながらないケースもある。武田はニンバスの新薬が開発の後期段階にあり、競合薬に対して高い競争力を発揮できる可能性も高いとしている。しかし、それは今後の臨床試験の結果などに大きく影響される。臨床試験を重ねて有効性が確認されるまでに、想定された以上の時間がかかる可能性も軽視できない。また、供給などの問題によって治療薬の製造が中止されることもある。2022年10月4日に武田は、副甲状腺の機能低下症治療剤に関して供給課題を理由に世界全体での製造を中止すると発表した。

 ある意味、そうしたリスクを負担することは、メガファーマとしての成長を目指すための宿命だ。新薬候補を増やすための買収などの資金をねん出するために、武田は前倒しで債務の圧縮を進めた。2019年3月末、シャイアー買収によって武田の社債と借⼊⾦の総額は5兆7,510億円に増加した。武田は大衆薬事業などの売却や収益の拡大によって獲得された資金を用いて債務の返済を前倒して進めた。その結果、武田の財務内容は改善した。2022年9月から10月にかけて、国内の大手信用格付け業者は武田の信用格付けを引き上げた。

予想される武田の成長戦略の主な内容

 以上より、武田が進めると予想される成長戦略は次のようにまとめられる。まず、有力な新薬候補、あるいはその創出体制の強化スピードを徹底して引き上げる。そのための一つの手段になるのが買収だ。自前での研究開発が、必ず新薬の供給につながるとは限らない。リスクを分散するためにも、スタートアップ企業などの買収はさらに増えるだろう。有望な治療薬候補を増やすことができるか否かは、メガファーマとしての競争力にかなりの影響を与える。

 その考えに基づき、世界中で有望な治療薬候補を持つ企業を買収しようとするメガファーマは増えている。米ファイザーは新型コロナウイルスワクチンの供給によって得た資金を活用して、競合他社の買収に積極的だ。新型コロナウイルスの感染症が発生したこともあり、世界全体で人々の健康、安心への欲求も一段と高まっている。それを満たすために、希少疾患分野などでの世界的な買収競争は一段と熱を帯びるだろう。武田はより迅速かつ、ファイザーなどに見劣りしない規模感で新薬の開発や買収、提携などを増やさなければならない。

 次に、キャッシュフローの創出を強化することがある。いくつかの方策があるなかで、まずはこれまでの買収によって取り込んだ資産とのシナジー効果をより大きく発揮することが求められる。武田は、バイオ薬品に加えて、ワクチンの供給にも力を入れている。その一つとして、武田はインドネシアからデング熱ワクチンの承認を得た。米国での審査も進んでおり、中長期的な収益獲得の期待は高まっている。その背景として、自社の研究開発体制の強化は大きい。それに加えて、シャイアー買収による米食品医薬品局(FDA)との交渉力の強化なども大きく影響しているだろう。

 また、競合製品の登場などによって収益性の低下した資産を売却することによって財務体力を高めることも欠かせない。想定された以上に時間とコストがかかっている新薬開発の中止という経営陣にとって苦渋の決断をしなければならないケースも増えるだろう。このように買収などによって資産、新しい知見の獲得を加速度的に増やしつつ、財務面のリスク管理とキャッシュ創出力の強化を徹底して進めることが求められる。それは、武田のさらなる成長に大きく影響するだろう。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

武田薬品、シャイアー巨額買収の効果が着実に発現…メガファーマ化が急加速のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!