昨年12月19日から21日にかけて、記録的な大雪により新潟県内の国道で自動車の立ち往生が発生したのは記憶に新しい。柏崎市内の国道8号では22kmに及ぶ滞留が発生し、800台以上もの車が動けなくなった。そして、20日には長岡市でも国道8号に接続する国道17号線で渋滞が続き、一時は300台あまりが滞留していたという。21日午前8時ごろまでには、すべての通行止めが解除されたものの、今後の大雪への対策は急務だろう。
これを受け、ネット上ではEV(電気自動車)について心配を寄せる声が多く見受けられた。EVは寒冷地だとバッテリーへの負荷が大きいので、立ち往生でどれだけ耐えられるかと疑問に思う声は少なくない。またガソリン車なら携行缶による補給ができるものの、EVだと充電はできないので、規模の大きい災害に弱いという指摘もされていた。
政府は温室効果ガスの排出削減などの目標達成に向け、2035年までに新車販売での電動車100%を実現する方針を打ち出している。この電動車には、電気のみを動力にするEV、燃料電池車、ハイブリッド車などが該当するが、今回の立ち往生の一件をきっかけに豪雪地帯でのEVへの乗り換えを厳しいと考える見方も強い。果たしてEVは本当に雪国での利用に向いていないのか。今回はモーターフォトジャーナリストの諸星陽一氏に、EVの雪国での実用性について解説してもらった。
雪国でのEV利用にはメリットもデメリットもある
まず、雪国におけるEV利用によるデメリットはあるのか。
「EVに搭載されているリチウムイオン二次電池は、気温が低い状態だと十分にパフォーマンスを発揮できないのは事実。ただガソリン車に関しても、燃料の温度が上がらなければ燃費は悪くなるので、EVのほうが寒冷地でのパフォーマンスが極端に落ちるという話ではないですね。EVにせよ、ガソリンにせよ、航続距離が短かったり、十分に充電、ガソリンの補給がされていなかったりすれば走れなくなるのは当たり前です。
しかし、バッテリー以外にもEVには弱点があるといえます。第一に寒冷地ですと、バッテリーの適正温度から外れる場合が多いので、充電する速度が遅くなったり、充電量が少なくなったりするので電欠しやすいんです。またガソリン車とは違って、EVだと空気全体に暖房を利かせるのが非効率であるという一面もあります。ステアリングやシートにヒーターを通らせて、局所的に温める機能もあるので、好みが分かれる部分ではあるのですが、車内が温まりにくい点を嫌だと考える人もいるかもしれませんね」(諸星氏)
一方で寒冷地でもEVならではのメリットはあるという。
「EVは滑りやすい路面に対しては、ガソリン車よりも優位性があるといえます。たとえば、路面凍結した道路で滑ってしまった場合、ガソリン車であればエンジン内の燃料の噴射を調整して速度を落とす必要がありますが、電気は一瞬で動力を落としてスピードを落とすことができるので制御しやすいんです」(同)
またガソリン車とは違い、一酸化炭素中毒のリスクが低いことも利点のひとつかもしれない。そして当然だが、バッテリーの持ちやスペックは車によって異なるので、それによって何時間立ち往生に耐えられるかも変わるそうだ。
「災害時にどれだけの電力を賄えるのかを測る指標として、ビークルツーホーム(V2H)というものがあります。これはいわばバッテリーから電力を取り出し、家庭用の電力に変換する仕組みのこと。このV2Hの電力を流用して、災害時などに蓄電池として家電製品などに利用できるんです。メーカーのホームページに詳しいスぺックが記載されているので、購入する際に一度確認しておくことをおすすめします」(同)
たとえば、日産自動車を代表するEV「リーフ」は、公式サイトによればフル充電で最大約4日間も家中の電力をまかなえる。大雪下での立ち往生に耐えられるかどうかの直接の指標にはならないが、災害時におけるEVの有用性を推しはかる上での参考になる。
充電器の設置がどうなるかが最大のポイント?
降雪地帯が多い北欧のノルウェーでは、2022年の乗用車販売におけるEVの割合が79.3%と8割近いシェアを獲得し、世界一のEV大国となっている。水力発電で賄う電力、石油・天然ガスによる利益、EV優遇政策などにより急速にEVへとシフトできたというのだ。日本でノルウェーとまったく同じEV推進施策を行うのは難しいが、日本のある降雪地帯ではEVを推進しているところもあるそうだ。
「雪国である長野県白馬村では、再生可能エネルギーによる電力を100%自給する取り組みを目標にし、EVを積極的に推進しています。白馬村の主力産業はスキー産業であり、このまま地球温暖化が進めば、必然的に白馬村の雪が少なくなってしまう、という危機感からEVを推し進めているのです。
もちろん白馬村の例は、環境対策という側面が強いのですが、山間部でEVが利用できる設備を導入する意義はあります。都市部に比べて、土地に余裕のある地方では自宅にソーラーパネルを置きやすいですし、電気代をカットして充電できるでしょう。また地方だとガソリンスタンドまで遠く離れていることもあり、EVのほうが使いやすい、というケースもあり得ます」(同)
白馬村の2021年度の電力自給率は111.5%と100%を超える数値であり、普通充電器、急速充電器も整備されている。そんな充電器の設置が今後のEV普及の課題になってくると諸星氏は指摘する。
「現状、EV用の充電器の設置は基本的に政府主導で進められています。つまりガソリンスタンドのように民間企業が参入できていないんです。そのため政府の方針次第で充電器の普及具合が変わることも考えられます。
また日産と神奈川県が主導して県内に充電器の導入が進められた事例もありますが、急速充電器の耐用年数を心配視する声もあります。急速充電器は高い電圧を必要とし、地中に太い電線を設置する必要があるので工事が大変。しかも、昔に設置された充電器であればあるほど、充電できる量も少なくなりがちなんです。EV普及のためには、充電器問題に早急に取り組むべきであり、かつ企業が参入できて利益を出せるような仕組みにしないと継続的な充電器の維持、管理は難しいでしょう」(同)
充電器の設置数、設備がままならなければEVは満足に動けない。それに雪国だと充電器ひとつないだけで死活問題になる可能性もあるだろう。最後に諸星氏は、今後のEV普及には技術革新も鍵になると語った。
「全固体電池という新しい電池の開発次第で今後のEVは変わってくるでしょう。現在、EVで広く搭載されている正極、負極の間が液体になっているリチウムイオン2次電池に比べ、全固体電池はすべてが固体でできています。全個体電池が一般的にEVへ搭載されれば、より軽量化、長寿命化を果たしEVがますます使いやすくなります。一朝一夕で開発できるものでもないですから素直にメーカーの開発手腕に期待したいですね」(同)
メーカーと国、どちらの動きにも目を向けていきたい。
(取材・文=A4studio)