2001年にJR東日本でサービスが開始されたICカード乗車券「Suica」のシステムが、約20年のときを経て大幅に変更される。これまで改札機で行われていた運賃計算などがセンターサーバーで実施されることになるが、通信やサーバーの障害時の対応やタッチ&ゴーの処理スピードを懸念する声もあがるなど、話題を呼んでいる。
JR東日本は4日、「新しいSuica改札システムの導入開始について」というリリースを発表。これまで改札機で行っていた運賃計算を、ネットワーク通信を介してセンターサーバーで行う方式に変更すると発表。北東北3エリア(青森・盛岡・秋田)では5月27日に、首都圏・仙台・新潟エリアでは今年夏以降に導入される。センターサーバー方式の導入により、サービス機能の拡張性向上、スピーディな改修とコストダウン、処理スピードの向上が図られる。現行の改札機とくらべて処理スピードが速くなり、複雑な計算処理が可能になるという。
また、サーバー上でチケット情報などを管理する「鉄道チケットシステム」を導入。時間帯や曜日などの利用条件によるSF(電子マネー)割引クーポンを事前購入すれば、改札機にSuicaをタッチするだけで自動的にIC運賃が割引となったり、商業施設での会計時にプレゼントされたSF割引クーポンを利用して、改札機へのSuicaタッチ時にIC運賃が割引になったりするサービスが提供可能になる。このほか、新幹線・特急による都市間移動や発・着地内の移動も、Suicaをタッチして利用できるようになる。
JR東日本の発表をみる限り、ユーザーにとっては利便性の向上が図られデメリットはないようにも思えるが、SNS上では次のような声も相次いでいる。
<Suica改札はサーバーを介さないことで、首都圏の大量のトラフィックを高速で捌き、かつ、どれだけ障害が起きても「改札だけは通れる」耐障害性を実現した、JRとSONYによる奇跡のシステムだったのに・・・凡庸なシステムの一つに成り下がってしまう>(原文ママ、以下同)
<コレ起きたら、改札入れない、出れないになるんじゃ無い?>
<新宿とかの0.1秒を争う改札だとタッチ&ゴーじゃないとトラブルが頻発しそう>
<仕様通りに、0.2秒で処理なんて、通信した途端に、無理>
<今みたいな高精度かつ高速で判定出来るタッチのシステム維持出来てるのは組み込み技術の強みがあると思ってます>
<流石にインフラ企業として耐障害性の部分抜きにした実装はしないと思うんですけど、都度通信発生するような構築してたら普通に渋滞起きそうだなと…>
大幅なコストダウンにもつながる
今回のシステム変更によって、リスクの上昇やトラブルの増加など何か懸念されることはあるのか。ITジャーナリストの山口健太氏はいう。
「JR東日本の自動改札は、ラッシュ時の新宿駅のように世界で最も混雑する状況にも耐えられるよう設計されています。これまでは改札機の中で運賃計算を完結させる仕組みでしたが、ネットワークなどの性能向上により、いよいよこれをサーバーに移行させる目処が立ったといえます。現在でもSuicaの利用データが送られるサーバーはありますが、そこに問題があっても改札機を通る利用客への影響はありませんでした。
しかしサーバー側に多くの処理を依存するようになると、複数の改札機で同時に不具合が起きる可能性はあります。その場合、一時的に全員が通れるように改札を開放し、次に通るときに入出場の整合性を取るといった対応になるでしょう。また、いきなり首都圏に導入するのではなく、まずは利用の少ない北東北から導入し、徐々に都市部に展開するという段取りになっています」
JRおよび利用者にはどのようなメリットが発生することが想定されるのか。
「これまでは改札機内で運賃計算に使える時間に限りがあるため、Suicaにはさまざまな制約がありました。しかしサーバー方式ではより高度な運賃計算が可能となり、首都圏と仙台のようなエリアをまたいだ利用にも対応できます。改札機が簡素化されることで大幅なコストダウンにもつながります。これまで導入が難しかった利用の少ない駅にも設置しやすくなります。駅に導入されれば、周囲の店舗や自販機にもSuica対応が広がるでしょう。
Suicaの登場で紙の切符はICカードになり、日常の買い物や会員証に用途を広げています。しかし最近ではPayPayのような決済アプリが台頭し、クーポンや他サービスとの連携など自由自在に機能を高めています。Suicaがサーバー方式になればアプリとの連携も強化できることから、将来的にはPayPayを上回る利便性を提供したいというのがJR東日本の思惑でしょう」(山口氏)
(文=Business Journal編集部、協力=山口健太/ITジャーナリスト)