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サムスンの研究拠点設置に日本政府が200億円も補助が「おかしい」理由

文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト
サムスンの研究拠点設置に日本政府が200億円も補助が「おかしい」理由の画像1
韓国サムスン電子のHPより

 韓国サムスン電子が横浜市に2024年度中に半導体の先端研究拠点を開設する。半導体の売上高世界シェア1位で最先端の技術を持つとされるサムスンが、なぜ半導体産業の凋落が叫ばれる日本に今さら研究拠点を開設する必要があるのか、疑問の声もみられる。また、かつてサムスンは日本の半導体メーカーから数多くの技術者を引き抜き、技術を向上させたこともあり、「また日本企業の技術を盗もうとしているのでは」といった見方もみられるが、日本政府はそんなサムスンの拠点開設費用の半分にあたる約200億円を補助すると発表。日本の半導体メーカーの競合相手でもある同社に国が補助金を出すことに、疑問の声もあがっている。サムスンが日本に先端研究拠点を開設する理由、そして政府が補助金を出す理由について、専門家の見解を交え追ってみたい。

 サムスンが横浜市みなとみらい21(MM21)地区に設置する「アドバンスド・パッケージ・ラボ」は、主に半導体の高性能化に必要なパッケージ技術の研究開発を行うとみられている。

 日本の半導体メーカーは1980年代後半に世界シェア50%以上を有していたが、現在では大きく低下し、最先端技術の2nmの半導体の生産技術はないとされる。2022年にトヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が出資し設立したRapidus(ラピダス)は27年に2nmの半導体を量産することを目指しており、政府も総額9000億円以上の補助を決めて支援するが、日本の半導体産業は凋落が叫ばれて久しい状況だ。

日本が得意なコンパウンド事業

 そんな日本に今、なぜサムスンが先端研究拠点を開設するのか。理由の一つが、日本には高い技術力を持つ半導体関連メーカーが多い点だ。たとえば半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREEN、日立ハイテク、KOKUSAI ELECTRICは世界市場で一定の存在感を示している。このほか、半導体基板素材であるシリコンウエハーの信越化学工業、半導体製造用フォトレジストの東京応化工業、露光装置のニコンとキヤノン、後工程の装置メーカーであるディスコや東京精密、検査装置のアドバンテストなどが有名だ。ちなみに今回サムスンが拠点を設置する横浜市にはレゾナック・ホールディングスやレーザーテックなど半導体関連企業が多く、これらの企業や大学などとの連携も視野に入れているとされる。

 国際技術ジャーナリストの津田建二氏はいう。

「サムスンに限らないが、外国企業が日本で研究所を持つ主な理由は、最終製品に使う部品や材料の調達だ。スマホでトップをいくサムスンの既存の研究組織も例外ではなく、スマホ用の部品・材料の調達が目的だ。サムスンが横浜に研究所を設立するという話は一昨年の22年から出ており、おそらく半導体パッケージの研究所だろうと予想していたがその通りだった。それも後工程ではなく、前工程との中間の中工程といわれる先端パッケージ技術の領域で、世界中の半導体企業がこれから開発する新しい分野だ。台湾積体電路製造(TSMC)をはじめ、インテル、AMDなどがしのぎを削っている。

 このなかで重要な技術は、日本が得意な半導体関係の材料技術。半導体パッケージでは、材料は1種類だけではまったく使えないものが多い。このため、さまざまな材料を組み合わせるコンパウンド事業が日本の得意なところ。材料単体も日本が得意。サムスンが欲しいのは、まさに材料分野。新研究所では化学薬品企業に勤める日本人エンジニアがターゲットとなる。

 かつてサムスンは日本人技術者を土日にアルバイトとして雇い、毎月40万円ほど支給していた時期があった。サムスンは日本企業にDRAM(半導体メモリーの一種)技術のライセンスを求めたが、日本企業がすべて拒絶したため、マイクロンからライセンスを取得・購入し、日本人エンジニアの週末アルバイトという形を採った。今回は自前の研究所をつくるということから、日本政府から見ると日本人雇用の点で評価したのであろう」

サムスンへの補助に疑問

 もう一つの理由が、日本政府からの補助を受けられる点だ。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と経産省は昨年12月、日本サムスンを「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(助成)」の助成先として選定しているが、政府は海外半導体メーカーの研究・製造拠点の誘致に力を入れ、多額の補助を行っている。世界最大手の半導体ファウンドリー・TSMCの工場建設(熊本県)について、政府は第一工場に総投資額の約4割に相当する4760億円、第二工場に約5割に相当する9000億円を補助。22年には米メモリー大手マイクロン・テクノロジーの広島工場の設備投資に400億円以上を助成することを決定している。

 なぜ政府は、ラピダスをはじめとする日本の半導体メーカーの競合相手でもあるサムスンに巨額の補助を行うのか。

「日本は最終製品である半導体では完全に世界で取り残されたが、装置や素材など半導体関連メーカーは世界市場でも強い競争力を持つ。政府としては、こうした企業とサムスンとの連携を強化させることで成長を後押しする意図があるのでは」(大手電機メーカー関係者)

 津田氏は今回のサムスンへの補助について疑問を呈する。

「200億円もの援助が妥当かどうかは疑問が残る。日本が誘致したわけではなく、日本の材料エンジニアが欲しいという積極的な理由で研究所をつくるからだ。投資額400億円の半分ではなく、4分の1程度の100億円が妥当ではないだろうか。残りの100億円を日本の材料・化学メーカーに使うべきではないか」

(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)

津田建二/国際技術ジャーナリスト、「News & Chips」編集長

津田建二/国際技術ジャーナリスト、「News & Chips」編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。
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Twitter:@kenjitsuda2007

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