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JR北海道、経営危機の原因は安すぎる運賃…定期の割引率改定→すぐ黒字化?

文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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JR北海道新幹線
JR北海道H5系新幹線電車(「Wikipedia」より)

 JR北海道が運賃の値上げを検討していると発表し、さまざまな角度から話題になっている。JR北海道は慢性的に経営状況が厳しいが、値上げによって改善の見込みはあるのだろうか。また、退職者が続出しているとの報道もあり、人手不足も問題視されている。

 JR北海道の綿貫泰之社長は3月21日、経営改善に向けて運賃の値上げを検討していることを明らかにした。値上げには国の認可を得る必要があるため、時期や値上げ幅は未定だが、実現すれば2019年10月値上げ以来となる。値上げの理由について、「資材や燃料がかなり高騰し、鉄道を持続させるには輸送サービスの改善も欠かせない。人材の確保、育成の観点からも運賃改定を検討せざるを得ない」としているが、そもそも同社は慢性的に経営状況は悪い。

 JR北海道は経営再建中で、国から2024年度からの3年間で1092億円の支援を受けることが決まっている。だが、すでに支援を受けているにもかかわらず、2024年3月期は純損益が84億円の赤字となる見通しだ。JR北海道自身が「単独では維持困難」とする赤字8線区など、経営の健全化に向けて足かせとなり得る路線をどのように見直していくのかが大きな課題だ。

 鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は、経営再建を進めるうえで運賃改定は必須との見解を示す。

「JR北海道が今後も鉄道事業を続けていくために運賃の値上げは必須と考えています。実を言いますと、JR北海道の運賃は同じ北海道にあります札幌市交通局の地下鉄と比べても割安です。国は運賃の基準として『大人、10km利用』で考えています。この条件でJR北海道の幹線に乗車した場合は290円、地方交通線で300円です。一方で札幌市の地下鉄は3区乗車分に相当し、やはり290円となります。コロナ禍前の2019年度に札幌市の地下鉄は鉄道事業で337億9693万円の営業利益を計上しており、JR北海道は559億2786万円の営業損失を計上しておりました。JR北海道は大都市で営業している区間が少なくて大赤字にもかかわらず運賃が札幌市の地下鉄と同額では経営が成り立たないとは多くの人々が感じることでしょう。

 通勤定期運賃となると、この傾向はさらに強まります。国が通勤定期運賃の比較に用いているのは『大人1カ月、10km乗車時』で、JR北海道の幹線は9200円、地方交通線は9580円であるのに対し、札幌の地下鉄は3区で1万2180円です。JR北海道と札幌の地下鉄との最大の差は通勤定期の割引率で、JR北海道は幹線で47.1%、地方交通線で46.8%であるのに対し、札幌の地下鉄は30.0%しかないために、このような現象が生じています。

 しかも、2019年度のJR北海道の輸送人員(利用者数)が1億3396万人であったなか、通勤定期の利用者数は4995万人と37%を占めています。定期外の利用者の5595万人に次ぐ多さにもかかわらず、割引率が大きすぎてほとんど利益が出ていないか、赤字に近い状態となっていて、しかも輸送人員に占める構成比が大きいので、このままではたとえJR北海道の閑散路線がすべて廃止となったとしても経営の改善は望めません。

 通勤定期の割引率は、札幌市の地下鉄だけが特別に小さいのではなく、他の都市の地下鉄も大手私鉄も皆30%台です。JRだけ前身の国鉄の通勤定期の割引率が51%あり、そのまま引き継いでしまったために、JR北海道のように多少引き下げたとしてもまだ足りない状態となっています。

 仮に運賃の値上げを通勤定期の割引率の引き下げだけにとどめても相当な収入増となります。年間4995万人の通勤定期利用者が地方交通線の10kmの利用者だとすると、1カ月定期は9580円で、この割引率を札幌市の地下鉄並みの30%として金額を1万2180円に引き上げます。すると差額は2600円です。さすがに全員が1カ月の定期ではなく、皆6カ月定期だとすると、増加分の収入が得られる機会は年2回です。さらに、定期券の利用者は1日に往復で2回利用することから実際には輸送人員の半分と思われます。6カ月定期でもJR北海道と札幌市の地下鉄との差額が同じだと考えますと、4995万人÷2×2600円×2回から、収入増は1298億7000万円です。JR北海道は2019年度に559億2786万円の営業赤字を計上していましたが、逆に739億4214万円の営業利益となります。ここまで荒唐無稽な金額とはならないでしょうが、営業収支を一気に好転させられることは間違いありません。

 黒字となり、将来の展望が開ければ、そのとき初めて不採算のローカル線をどう維持すべきか考えられるようになりますし、何よりも社員の就業意欲が高まります。全国の第三セクター鉄道のなかには上下分離を行っているところがあり、鉄道事業者が黒字、線路保有者が赤字であっても、鉄道事業者で働く人の意欲は高まり、結果として利用者の増加につながったケースがあります。鉄道は人間が支えている業種ですので、見かけ上でも黒字にすることに意義があり、JR北海道にも良い結果をもたらすと考えます」

 慢性的に赤字のJR北海道が、意外と割安な運賃であったという事実はあまり知られていないかもしれない。日常的に利用する方にしてみれば、運賃が引き上げられるのは好ましくないだろうが、長い目で見て、経営母体が破綻することのほうがデメリットは大きいはずだ。少しでも早く経営を健全化するために、値上げは避けて通れないといえる。

 一方で、JR北海道では、自己都合による退職が相次いでいるとの報道もある。それは若手も含まれており、それに伴って採用コストも増大しているという。経営が安定しなければ、会社を見限って、より将来性の高い企業への転職を考える人が増えるのも仕方がないのかもしれない。JR北海道は一刻の猶予もない状況だといえるだろう。

(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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